月影の約束

月影村は、小さな丘に囲まれた静かな村だった。村を取り巻く自然の中で、時折、微かに響く風の音が心を和らげる。

この村に住む少女、ユリは、内気で控えめな性格の持ち主。彼女はいつも人目を避け、一人でいることを好んでいた。その心の奥には、秘密の思いが隠されている。自分の気持ちを言葉にすることが苦手で、いつも自分の気持ちを押し殺して生活していた。

ある日、村の外れにある古い神社を訪れたユリは、ふとした瞬間、神社の奥にある社(やしろ)で美しい光景を目にした。その光景は、月の精霊であるルナだった。ルナは、この村に月の光を届ける使命を持っていると言われる存在だった。

ルナはユリの心の奥底に秘めた思いを敏感に感じ取り、自らの力を使って彼女に勇気を与えてくれた。初めて自分の気持ちを表現できた瞬間、ユリは驚きと共に解放感を感じた。ルナと一緒に過ごせる時間が増えるほど、ユリの心は軽やかになっていった。

月明かりの下で、自分の想いを話すことができる。ルナは優しく笑いながら、ユリの心を受け止めてくれた。二人の絆は日に日に深まっていく。しかし、その関係には暗い影が潜んでいた。ルナの力は、毎月の満月の夜にしか行使できず、それ以外の時間は彼女もまた人間の姿を持たない存在であった。

そのことを知ったユリは、心の中で葛藤を抱えることになった。彼女はルナに対する深い愛情を感じながら、彼女との別れが近づくことを恐れるようになった。毎月の満月の夜に過ごす時間は、まるで夢のようであったが、その夢が終わることを考えると、胸が苦しくなった。

春の夜、ユリは神社にルナを呼び出した。月明かりが二人を優しく包み込んでいる。ユリは、心の中で感情が渦巻いているのを感じながら、勇気を持ってルナに語りかけた。”ルナ、あなたに出会えて、本当に良かった。私の心は、あなたによって満ちているよ。”

ルナは静かにユリの言葉を受け入れ、優しい眼差しで彼女を見つめた。”ユリ、私もあなたのことが大好き。あなたの心の強さを知ったからこそ、私も使命を果たす勇気をもらったの。”

その言葉に胸が熱くなり、ユリは涙を浮かべた。ルナの存在は、彼女にとって特別なものだった。生きている感覚や、他者との繋がりの大切さを教えてくれたルナ。しかし、ルナには大切な使命があることを理解し、ユリは自分が彼女にとって無理な存在ではないかと不安を感じた。

そして、満月の夜がやってくる。ユリとルナは神社の境内に静かにひざまずいていた。ルナの顔には、悲しみと期待が交錯している。”今夜、私の力が試される。これが最後の夜なの。” と、ルナは静かに告げた。ユリは言葉が出なかった。ただルナの手をしっかりと握りしめた。

月の光が二人を包み込み、まるで運命の瞬間が訪れたかのようだった。ユリは心の奥から溢れ出る想いを言葉にして伝えようとした。”ルナ、私の気持ちを、どんなに謝っても足りないくらい感謝してる。本当に好きだった。あなたと一緒に過ごした時間は、私の宝物になるよ。”

涙声で言葉を紡ぐユリに対し、ルナは涙を流しながら応えた。”私もあなたを愛している、ユリ。だけど、私は月の精霊。その使命から逃げることはできない。” 彼女は涙交じりの笑顔でユリを見つめ、その瞬間、二人の間に流れる時間が永遠に続いて欲しいと願った。

月の光が二人を包み、時間が経つにつれて、ルナの姿が薄れていく。ユリはその光景を見つめながら、言葉にならない悲しみに襲われた。”ルナ、お願い、行かないで!私を置いていかないで!” だが、ルナは優しい目でユリを見つめ、力強く訴えた。”大丈夫だよ、ユリ。私の心の中には、あなたがずっと生き続けているから。”

すると、ルナの姿は月の光に溶け込むように消えていった。悲しみに揺れるユリは、放たれた涙が頬を伝い流れるのを止められなかった。彼女は深く息を吸い、心の奥でルナとの思い出を抱きしめた。別れは辛かったが、彼女の心にはルナが残した愛情が、消えることなく生き続けていることを感じることができた。

その後、ユリは再び月を見上げた。月が静かに照らすその光に、彼女はひとしずくの笑みを浮かべた。「私は一人じゃない。ルナが私の心の中にいる。それを忘れない。」

そう、ユリは月影村での新たな一歩を踏み出すことを決意した。大切な思い出を背負いながら、彼女はこれからも自分の気持ちに正直に過ごしていくと心に誓ったのだった。

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