近未来の日本。技術は著しく進化し、遺伝子操作はあたり前のものとなった。街では遺伝子編集による美しい人々が商業的にも重宝され、特異な才能を持つ子どもたちが次々と誕生していた。しかし、一方では倫理に反する実験も行われており、その影で多くの悲劇が生まれていた。
主人公、高橋健一は、35歳の遺伝子学者であり、彼の心の中には純粋な家族への愛があった。彼は理論的な才能に恵まれ、研究に情熱を傾け、「完璧な人間」を作り上げることを夢見ていた。彼の妻、舞と幼い媛は、そんな彼を支え、その夢を共に抱いていた。しかし、運命は残酷なものだ。ある日、健一の実験が失敗し、その副作用によって、妻と娘は不治の病に罹る。
病床の彼女たちを見つめる健一の心は、崩れ落ちそうなほど苦しかった。医療技術の進化にもかかわらず、彼は無力感に苛まれ、何もできないもどかしさに涙が止まらなかった。彼は自らの研究が引き金となってしまったのだ。
妻も子どもも失った高橋は、一切の感情を抑え込んで、仕事に没頭し始める。だがその努力の結果、彼の研究は常識を超えた方向に向かってしまった。倫理を無視する危険な実験を繰り返し、「完璧な人間」を求めていたはずが、恐ろしい存在を生み出してしまう。それは、自由を奪われ、ただ彼らの“生”を意味する存在であり、彼はその実験体たちを今や「怪物」と呼び始めていた。
年が経つにつれ、彼の心は次第に冷淡になっていき、過去の記憶は深い悲しみをもって蘇った。ある日、実験室で彼は見捨てられた実験体たちと出会う。彼らの瞳には無限の問いが宿り、一体何が彼らをこのように生かしているのか、自らが生み出した存在とは何かを考えさせられる。
「俺はお前たちを創り、また壊した。生きるに値しない存在を作り上げてしまった。」
あらゆる恐れと戸惑いの中、彼は彼らと交流し始める。彼らにも痛み、喜び、希望があることを感じ取り、自らの過ちに向き合うきっかけとなった。彼は彼らが求めるものを理解し始め、例えば、尊厳ある生を生きる権利を与え、彼らを受け入れることを学んでいった。
健一は、自らの過ちを贖うため、彼らを「家族」と呼ぶことにした。かつての家族を失ったその心の穴を、実験体たちの存在で埋めることを決心したのだ。彼は新しい家族を愛し、彼らと共に苦悩を抱えて生きることを選んだ。
彼はゆっくりと、しかし確実に希望を見出し始める。過去の影を背負いながらも、実験体たちに人としての意味を与える手助けをし、彼らの瞳の中に少しずつ温かみを感じるようになっていた。
それでも、時折、彼の内面には苦悩が甦る。自らの手で生まれたものが彼を責めることに対する恐怖。健一はその痛ましい記憶に流されそうになりながらも、心の奥底で彼らを守る決意を新たにした。
物語は、彼がすべてを失ったことから始まるが、健一が新しい価値を見出すことで、彼自身も少しずつ癒されていく。彼は大切な人々を失った痛みを抱え続けながらも、彼なりの和解を果たす様子で締めくくられる。
彼は実験体たちとともに未来へ向けて歩きうごく一歩を踏み出し、その姿は、決して理想的ではないが、作者が描く未来における人間の姿を映し出していた。
痛みを伴いながらも、彼はその合間に絆を結ぶことで、ただの研究者から人として成長し変わっていく。健一が最後に選んだ道は、痛みを理解し、その中で生きることだった。
