東京の喧騒から少し離れた小さな町。そこには、いつも同じ時間に起き、同じ電車に乗り、同じように疲れた顔で帰宅するサラリーマン、高橋健太が住んでいた。彼の生活は、まるで機械のように規則正しく、日々の変化はほとんどなく、ただ時計が回るのを眺めるだけだった。
そんなある日、友人の勧めで「お笑い劇団」に参加することになった。健太は最初は渋っていたが、友人の情熱に押されて参加を決意した。最初の稽古場に足を踏み入れると、彼を待っていたのは個性豊かな仲間たちだった。
「おい、君が新入りの高橋か!」と豪快な声で叫ぶのは、超お調子者の佐藤。彼はいつも周囲を笑わせることに命をかけているような男で、初対面にもかかわらず、すぐに肩を叩きながら仲間に引き込まれていった。
鈴木は一見するとつかみ所がない、まるで小動物のような不思議な存在。彼は全く発言しないかと思えば、突然「それ、面白い」と言ったかと思うと、まったく関係のない話を始めたりする。彼の独特なキャラクターに、健太は逆に興味を抱くようになった。
稽古を重ねるにつれ、さまざまなハプニングが起こり、健太はだんだんと仲間たちとの距離が縮まっていく。ある日、楽屋での餃子パーティーが原因で、舞台衣装が焦げてしまった。みんなで必死になって火が消えていないか確認する一方、佐藤は面白おかしく「おばあちゃんの餃子の作り方」をモノマネし、場は笑いで沸き返った。
時には、稽古中に鈴木が突然粘土細工を始めて、その作品を披露することもあった。誰もが「何それ、お弁当箱?」と質問すると、鈴木は「ノー、これが彼の新作、笑顔を形にした作品だ!」と無邪気に答えるので場がさらに盛り上がった。時折、彼らの奇想天外な出来事やぶっ飛んだ発言に、健太の心も柔らかくなっていくのを感じた。
そして、ついに本番の日がやってきた。開演直前、健太は緊張で手が震えていた。顔が引きつり、心臓がバクバクしていたが、舞台に立つと不思議とその緊張はどこかに消えた。幕が上がると、観客の期待の視線が集まり、ドキドキしながらセリフを思い出そうとした。
しかし、ひとつも台本を思い出せないまま、健太は思わず自分の生活について話し出した。「僕は毎日同じことの繰り返しで…」すると、観客の反応が次第に興味を引き、健太は感情を込めて語り続けた。彼の話は失敗談や日常の愚痴から始まり、次第に周囲の笑顔が彼のストーリーに引き込まれていった。
健太の話を中心に、劇団員たちも即興でアドリブを入れる。佐藤は急に「健太がそのカフェで誇ったコーヒーがどうのこうの」と絡んできて、会場は爆笑の渦に包まれる。そして鈴木も「次は健太の人生ドラマをやろう!」と無茶振りをする。健太は「えっ、そんなこと言われても…」と戸惑いながらも、観客の反応を感じながら続けた。
「笑いは人生のスパイスだ」と明るく叫び、健太はサーカスのような喧噪の中、仲間達を見渡した。その瞬間、彼は彼自身の新しい一歩を踏み出す決意を固めていた。お笑いの道を選ぶかは分からないが、日々の中に小さな笑いを見つける楽しみを彼は見出したのだ。
この経験を通じて、ただのサラリーマンであった健太は、人生の新たな香辛料として「笑い」を取り入れることにした。それは、彼にとってだけでなく、彼の周囲の人々にも共通する新たな「笑い」のウエーブとなっていく。
そうして、健太の人生は一変した。日常の中に小さな笑いを見つけ、仲間たちとの絆を深め、予想もしなかった形のエンターテインメントを受け入れるようになる。そして不思議と笑いが周囲の人々にも伝播していく様子を彼は見て、改めて「人生は自分の手の中にある」と実感することになる。
こうして東京の小さな町で、おかしな仲間たちは笑いの種を撒き続け、その毎日が少しずつ彩りを増していくのだった。