薄暗い森に囲まれた小さな村、アクシスには、長い間、疫病と飢饉が村人たちを蝕んでいた。村の空気は重苦しく、太陽の光も差し込まないかのように、木々が不気味な影を落としていた。
主人公イワオは、かつてこの村で輝かしい未来を夢見ていた一人の男だった。しかし、彼の家族は疫病に蝕まれ、一世代前に命を落としてしまった。その結果、イワオの心には絶望が根付いている。村の生きる希望を失ったイワオは、彼の惨めな人生の意味を見出せずに日々を過ごしていた。
ある日、イワオは森の奥深くへと足を運んでいた。冷たく湿った空気が彼の肺を侵し、周囲の木々は彼の心に不安をもたらす。そんなとき、目の前に奇妙な女性が現れた。彼女の名はシエラ。彼女は長い黒髪を持ち、神秘的な微笑みを浮かべていた。
「私はあなたの願いを叶えます」と彼女は穏やかに語った。
イワオは戸惑いを感じながらも、何か希望を求めてしまう自分がいた。「村を救ってくれ」と、彼は切実な願いを口にした。シエラは目を細め、彼の期待に応えるかのように頷く。「しかし、そのためには代償が必要です。あなたの心の一部を私に与えること。それで、村を救う力を授けましょう。」
イワオは一瞬戸惑ったものの、村の人々が苦しむ姿を思い出し、その代償を受け入れることにした。彼は自らの心の一部をシエラに渡し、願いを唱えた。すると、瞬時に、不気味な力が彼の内側から沸き上がり、村に広がっていった。
初めは村に平穏が戻ったように見えた。人々は笑顔を取り戻し、日常を取り戻そうとしていた。しかし、イワオは徐々に自分の心が空虚になっていくのを感じ始めた。彼の心の奥深くにあった怒りや悲しみが消えた代わりに、何も感じない無の境地が広がっていた。
村人たちはイワオの影響を気づいていなかった。彼の周囲には、かつてのような温かい絆が存在するのだが、イワオ自身はその輪から次第に離れていく。彼は自分の感情を喪失したことを理解せず、ただ薄暗い森の奥に迷い込むように孤独を深めていった。
日が経つにつれ、村には小さな変化が見え始めた。仲間同士の争いや不安が広がり、かつての平穏は再び姿を消していった。イワオはその原因が自分にあることに気づくことができなかった。彼がシエラに心の一部を差し出したことの代償が、次第に村を蝕んでいくのをただ傍観しているだけだった。
絶望の中、村人たちが再び苦しんでいる姿を見たイワオは、その影響を無視することができなくなった。彼は自らの心の空虚さと、誰も救えず、そして自分自身も救えない運命に直面する。彼の胸に重くのしかかるのは、もはや助ける術を失ったという恐れだった。
ある晩、村が不穏な気配に包まれ、イワオは漠然とした恐怖に襲われた。彼はついに気づいた。自らの暗闇が村を破壊しているという事実に。彼の感情が消え、もはや何も感じられないその状態は、彼の存在すら脅かしていたのだ。
そして、彼は村人たちに背を向ける道を選んだ。彼の心はもはや戻らず、ただ静かに闇に消えていくことだけが残されていた。イワオは薄暗い森に消え、村はその影響を受け続けた。彼の行動は、もはや誰にも届くことはなかった。彼の絶望の淵へと落ち続け、アクシスの村も再び影に呑まれ、次第に忘れ去られていくのだった。