智子は平凡な主婦で、日々の暮らしに満足していた。彼女の趣味は洗濯物を干すことと、近所のおばあちゃんたちとお茶を飲むこと。その日もいつも通り、彼女は自宅で靴下を洗濯しているところだった。しかし突然、部屋が光に包まれ、次の瞬間、彼女は異世界へと召喚されてしまった。
目を覚ますと、智子は異世界の広大な草原に立っていた。周囲には不思議な生き物たちが行き交い、さらに、彼女の前には一団の年配の女性たちが立っていた。「私たちはおばあちゃん戦士団だ!」名乗るおばあちゃんたちの姿を見て、智子は思わず笑ってしまった。彼女たちの服装は、どこかしら魔法使いのようでしかもカラフルだった。
「智子さん、あなたは私たちの選んだ勇者です!」おばあちゃん戦士団のリーダー、ハルコが言った。智子は驚きながらも、実のところ自分に特別な能力がないことを知っていた。 “私、ただの主婦なんですけど…” それを聞いたおばあちゃんたちは各々の知恵を思い付くまま、智子に様々なアドバイスをした。
「まずは、魔王を倒す作戦を練らねば!」ハルコは神妙な面持ちで言った。「智子さんの靴下から出てくるかすみ草の香りを使って、魔王の心を掴むというのはどうかしら?」
智子は唖然とした。「え、香りで?」
しかし、彼女の好きなかすみ草の香りは異世界の住人たちにとって、極めて特別なものであるらしい。そのため、彼女たちは「かすみ草作戦」と名づけ、その香りを利用して魔王に迫る計画を立てた。
初めの作戦では、智子は特製の香りパックを作り、いざ魔王の城へ向かうことになった。おばあちゃん戦士団たちは気合を入れて智子を支え、無事に魔王の城にたどり着いた。しかしその途中、突如として出現した魔物に襲われる。智子が必死に作戦を続けるも、おばあちゃんたちは元気よく「逃げろ!逃げろ!」と叫びまくるばかりで、思うように作戦が進まない。
結局、香りが効かなかったのか、智子たちの計画はあっけなく失敗。魔物たちは大笑いし、その場は混沌とした雰囲気に包まれた。
次に試した作戦は「香りの饅頭作戦」。智子は香りを練り込んだ饅頭を作り、おばあちゃんたちと一緒に魔王をおもてなしすることに。智子は結局、自らの手で香り饅頭を作るが、その出来栄えはまるで食べ物とは言えなかった。見かねたおばあちゃんたちがそれを食べた瞬間、魔法のように全員が大きな声で笑い出す。役立たずの饅頭は大ヒット、皆が笑っている傍で、智子は無力感に襲われた。そしてまたも作戦は失敗。
次々と繰り出されるおばあちゃん戦士団らしい奇想天外な計画はどれも打撃的な結果をもたらし、時には村の中心でダンスパーティーを開いてしまったり、香りのリレーを行おうとして人々が香りを運ぶために馬にまたがってしまう場面もあった。異世界の住人たちの心はほとんど動くことなく、智慧は失われたままだった。
そんなある日、智子は魔王の待つ城に再び挑む決意を固めた。だが、意図せず魔王のトラップにかかり、巨大な罠に落ちてしまった。魔王の罠は一見するだけで可愛らしく見えたが、呪いを放つもので、智子がその場にいた全員に噴射した瞬間、異世界の住人たちは全て深い眠りに落ちてしまった。
「ああ、何てことだ…」智子は絶望の淵に立たされた。
結局、智子は異世界の住人たちを救えなかった。そして、彼女は現実世界に帰ることを余儀なくされた。どう考えても「救済」という言葉は彼女からほど遠いものになってしまったのだ。
智子は、自らの選択の重み、そして度重なる失敗の影響を痛感する中、静かに帰路をたどった。彼女の心には何も残らなかった。笑いに満ちた日々の裏にある無情が彼女を付きまとった。
こうして、空飛ぶおばあちゃんの異世界救済大作戦は終焉を迎えた。しかし、穏やかな智子の顔には微かな微笑みが浮かんでいた。なぜなら、彼女の日常に戻れるという安堵感は、どこか甘美なものであったからだ。