亡霊の街 – 第1話

不意に、何か良くない予感が胸を突き上げる。佐伯は思わずスマートフォンを耳から離したが、雑音は止まず、鼓膜を揺さぶるように響いてくる。すぐさま通話を切ると、今度は画面を見つめながら息をのんだ。発信番号の履歴は残っておらず、まるで最初から着信などなかったかのように表示が消えていた。

「一体、何なんだ…」

スマートフォンを握りしめながら背筋に寒気を感じる。単なるいたずら電話か、あるいは警告にも似た何かか。先ほど街の老人が言っていた“怨念”だとか“霊が出る”だとか、そんな話が頭をかすめる。しかしどこかで「馬鹿げている」という自分もいるのだ。何が現実で何が虚構なのか、取材を重ねれば真実をつかめるはずだと佐伯は自分に言い聞かせた。

その夜は落ち着かず、ろくに眠れないまま朝を迎えた。編集長への報告用に一通りのメモをまとめながらも、佐伯はあの通話の不気味さが頭から離れない。必ず確かめなければならない、そんな決意がより強くなっていく。大火災がかつてこの地を焼き尽くしたという真実は確かにある。亡霊の街と封鎖の関係は単なる都市伝説なのか、それとも何か恐るべき事実が隠されているのか。雲をつかむような状況でも、このまま引き下がるわけにはいかない。

「週末にもう一度、しっかりあの街に近づいてみよう。警備が手薄そうな夜明け前なら、うまく潜り込めるかもしれない…」

佐伯はそうつぶやき、日程を逆算しながら計画を立て始める。周りの人間は危険だと止めるかもしれないが、現場に踏み込まなければ何も分からない。とにかく少しでも多くの証拠を集め、封鎖された街の真相に迫る。それがジャーナリストとしての使命だと信じている。

焦るような気持ちと不気味な期待が入り混じったまま、佐伯はスマートフォンを覗き込む。夜中の着信以降、画面に異変はない。あれはただの錯覚だったのか、それとも見えざる何かが自分に手を伸ばしはじめたのか。どちらにせよ後戻りはできない——そう感じながら、佐伯は無人の封鎖区域へと足を踏み入れる準備を進めていく。

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