亡霊の街 – 第1話

しかし、ある古道具屋の店先で休憩していると、初老の男性がぼそりと声をかけてきた。

「にいちゃん、あんたあの街のことを探ってるんだろ」

「ええ、何かご存じですか?」

「昔あそこでは大火事があってな…多くの人が亡くなったらしい。その怨念が残ってるって、昔から噂されてるよ。ほら、『亡霊の街』なんて呼ばれてるだろ? 実際に霊なんざいるもんかって思いたいが、皆が皆、妙な噂をしてる。それに、聞いたか? 立ち入り禁止になったその夜から、街にいた奴らが誰も出てこなくなったって話を…」

声を潜めるようにして話す老人の顔には、薄く恐怖がにじんでいる。佐伯はさらに質問しようとしたが、老人は「悪いが、もう何も話したくないよ。首を突っ込むのはやめときな。命がいくつあっても足りないかもしれん」と言い残して店の奥へ消えてしまった。

街全体に漂う異様な雰囲気、原因不明の封鎖、行方不明者たち。佐伯がこれまで扱ってきた事件やミステリーの取材とはまるで次元が違うようだ。昼間はただの閉鎖区域に見えるが、夜になると街に何かが出現するかもしれない——そんな予感ばかりが増していく。だがまだ証拠が薄い。記事にするには裏付けがほしいし、なにより自分自身も納得できる形で真相に辿り着かなければならない。

その日の夜、自宅で取材メモを整理していると、佐伯のスマートフォンが突然鳴り出した。登録のない番号からの着信だった。画面には一瞬、「非通知」とだけ表示されている。

「はい、もしもし」

しかし相手の声どころか、ザザッという雑音ばかりが聞こえる。電波状況が悪いのかと場所を変えてみても状況は変わらない。耳を凝らすと、遠くのほうで誰かがうめくような声を出している気がする。——“…ここは…街が…”——言葉がはっきりとは分からない。それでも不自然なほど低くかすれた声が、短い断片を訴えているようだ。

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