亡霊の街 – 第2話

「何があったんだ、ここで…」

声に出しても虚しく夜明け前の空気に溶けていく。慎重に足を進めると、道端には古びた新聞紙の切れ端や破れた写真が散乱していた。掴み上げてみると、そこには数十年前の大火災に関する見出しが躍っており、大勢の犠牲者の名前が並んでいる。白黒写真の中、煙を上げる建物や悲鳴を上げる人々の様子が捉えられていた。これが噂に聞く「大火災」なのだと実感すると、胸がざわつくような痛みを覚える。

さらに奇妙なことに、最近まで生活していた形跡もちらほら見つかった。スーパーのビニール袋や日用品、さらにはまだ新しい家具が置かれたままの家もある。だが室内を覗くと、まるで長い間放置されていたように埃が積もり、家具には蜘蛛の巣が張っている。つい数日前まで人が暮らしていたと聞いていたはずなのに、この矛盾は一体どう説明すればいいのか。佐伯は喉の奥が渇いていくのを感じながら、スマートフォンを取り出し、手当たり次第に写真を撮り始める。

「ちょっと待て」

ファインダーの隅に何か白いものが映り込んだ気がして、佐伯は慌てて画面を確認する。そこには確かに人影のような輪郭が、白く透けるかたちで記録されていた。しかし顔の部分はぼやけていて、全体的に歪んでいる。思わず辺りを見回すが、人の姿はどこにもない。鳥肌が立つほどの恐怖と、得体の知れない好奇心が入り混じり、鼓動が早まるのを感じる。何度かシャッターを切ってみるが、その白い影は一瞬で消えてしまった。

「これは…まずいかもな」

冷たい汗が頬を伝い落ちる。普通であれば、ここで引き返して安全な場所へ逃げるのが賢明なのだろう。けれど、これがジャーナリストとしての性(さが)なのか、佐伯はもう少しだけ調査を進めてみたいという思いを抑えきれなかった。周辺の建物をざっと確認し、通りの奥へと歩いてみる。どこもかしこも無人でありながら、人がいた形跡だけは生々しく残されている。その重苦しい静けさに胸を締め付けられながら、佐伯は無言のままシャッターを切り続けた。

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