古本屋の時計 – 第1話

ユカは地元の小さな古本屋をぶらぶらと歩いていた。店内は古びた本の匂いで満たされ、書棚は歴史を感じさせる本でぎっしりと埋まっている。彼女はよくここに来ては、日々の忙しさから離れて心を落ち着けるのが好きだった。この日も、何気なく本を手に取り、ページをめくっていた。その時、目の前の棚の隅に、奇妙な外見の時計が置かれているのを見つけた。古びた革のストラップに、時刻を示す文字盤がなく、代わりに日付を示す不思議な仕組みがある。これは一体…?

「これは珍しいね、君に興味を持たれるとは。」店主の老人が後ろから声をかけてきた。「この時計はただの時計ではない。特定の日付に設定することで、その日の自分を体験できるんだ。」

ユカは信じられないような話に半信半疑だったが、好奇心が勝り、時計を購入して家に持ち帰った。家に着くなり、彼女は時計についていた説明書を読み始めた。説明書には、「心に残る日、変えたい日、もう一度体験したい日をこの時計に設定してください。しかし、過去は変えられないことを覚えておいてください。」と書かれていた。

最初の試みとして、ユカは小学校の卒業式の日、3月15日に設定することにした。その日、彼女は遠くに引っ越してしまった親友との別れを経験し、それ以来、ずっと心に引っかかっていた。時計の針を設定し、目を閉じると、彼女の部屋の景色が変わり、小学校の卒業式の会場に立っていた。

「ユカ、引っ越しの日が来ちゃったね。」遠くに引っ越すことになった親友の声がした。彼女はそこにいた。ユカは友人を強く抱きしめた。「本当にさよならなんて言いたくないよ。でも、これからもずっと友達だよね?」

「うん、離れていてもずっと友達だよ。」友人の言葉に、ユカは涙が溢れた。その瞬間、ユカは再び自分の部屋に戻っていた。時計は彼女の手の中で静かに輝いている。この体験は彼女に深い感動を与え、過去の自分と向き合う勇気をくれた。

しかし、この時計がもたらす影響は、まだユカが理解している以上のものだった。彼女はこの時計で失った機会を取り戻したいと考え始める。小さな願望から始まったこの冒険が、やがて彼女の人生にどのような変化をもたらすのか、ユカ自身もまだ知らない。

ユカはこの時計を使って、過去の自分と対話し、後悔を修正しようと決心する。しかし、過去を変えることができたとしても、それが現在にどのような影響を与えるのか、彼女はまだ見えていない。時を超えた選択が、現実にどのような影響を及ぼすのか、ユカはこれから学んでいくことになる。