和菓子の灯がともるとき – 12月26日 後編

12月26日 前編|後編

「お母さん、一人で大丈夫だった?」と声をかけると、母は困ったような笑みを見せて「店も閉めたままだしね。どうやっても病院通いは私がするしかないから」と呟く。それ以上何を言えばいいのか分からず、由香は少し居心地の悪さを覚えながら手土産を袋から取り出して母に差し出した。「これ、東京駅の近くで有名な洋菓子屋さんのケーキ。甘いの嫌いじゃないよね?」と尋ねると、母は「あら、ありがとう。久しぶりにこういう洋菓子を食べるわ」と嬉しそうに受け取った。

「お父さんの病院へ行く前に、店をちょっと見ておきたいんだけど」と切り出すと、母は「いいけど…」と少し心配そうな顔をする。由香は一瞬ためらうが、結局「大丈夫、懐かしいだけだから」と微笑んで玄関を出た。店は家の隣に続く通路を抜けた先にある。子どものころは家の勝手口から店へと行ったり来たりを繰り返したものだが、今はそんな活気すら感じられない。

シャッターの前に立つと、改めて「ここまで長い間閉まっていたんだなあ」と痛感する。母が鍵を開けてくれて中に入ると、空気がひんやりと冷えていて、お菓子を作るための道具や型、作りかけで放置されているような小道具がそのままになっている。埃こそうっすら溜まってはいるが、父が最後に作業していた痕跡が色濃く残っているのが分かる。湯気が立ち上るほど熱心に餡を練っていた父の姿を思い出し、由香の胸は切なくなった。

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