和菓子の灯がともるとき – 12月26日 前編

静かな年の瀬の空気が、ホーム全体を包み込んでいる。東京駅の喧噪を背に、由香は新幹線の乗車口へと足を進めた。ホームにはスーツケースを引きずる人や、帰省の土産を抱えた乗客があふれ、彼女もまたその一人だった。定期的に聞こえてくる到着や出発のアナウンスの合間を縫うように、心の奥底から「このままで本当にいいのか」という思いがかすかに湧き上がってくる。けれど、年末年始くらいは会いに行かないといけない。入院を繰り返している父のことを考えれば、躊躇している場合ではない。そう自分に言い聞かせるかのように、手にした大きな手提げ袋を少し握り直した。

その手提げ袋の中には、病室に持っていく予定の果物やちょっとした日用品と、母へのお土産の洋菓子が入っている。由香自身も甘いものが好きで、昔は父の作る和菓子をよくつまみ食いして叱られた記憶がある。都会に出てからは、気軽に菓子を作ってくれる父の存在のありがたみを痛感することもしばしばだった。一方で、いつからか彼女は父や地元に対して後ろめたさのような感情を抱くようにもなっていた。職場の忙しさを理由に、連絡すら疎遠にしてしまい、気が付けばもう年末。世間が「帰省ラッシュ」と騒ぐころになって、ようやく重い腰を上げる自分に情けなさを覚えつつも、今はただ父の顔を見るために新幹線の席へと急いだ。

車窓から見える景色が、ビル群からだんだんと山あいの風景へと変化していくにつれ、由香は少しずつ胸が締め付けられるような感覚を覚える。東京の暮らしに慣れたといっても、こうしてふるさとの方角に向かうと、懐かしい記憶や疎遠にしてきた罪悪感がないまぜになって押し寄せてくるのだ。数年ぶりの帰郷はどんな形になるのだろう。父はどれほどやつれているのだろう。母は一人で店を支える間もなく、父の看病をしているのではないか。想像が尽きず、窓の外に目を移すたびに頭の中が忙しくなる。