和菓子の灯がともるとき – 12月26日 前編

到着した駅のホームで降り立つと、一気に吹き込む冷たい空気が肌を刺した。都心部よりぐっと気温が低い。懐かしい駅舎の柱や壁の色合いを眺めながら、由香は「変わらないなあ」と小さく呟く。かつて頻繁に利用していた改札を通ると、目の前には昔よく見慣れた商店街へ続く道がある。大学に入学する前までは、友達と連れ立ってこの道を歩き、軽く食事をして帰るのが日常だった。あの頃はどの店も活気があって、年末ともなれば街頭には華やかな装飾や売り出しの旗が並び、多くの客でにぎわっていたものだ。

しかし今、商店街を横目に見ていると、どこか寂れた印象が否めない。シャッターを下ろしたままの店が増えたように感じられ、足早に通り過ぎる人影も少ない。由香は心のどこかで「こんなにも変わってしまったのか」と嘆息する。同時に、もし父が健康だったら、うちの和菓子屋「夏目堂」も年末の忙しさで大わらわの時期だったはずなのに、と考えてしまう。父は職人気質で、正月用の生菓子や餅菓子を年末に作るのを何よりも大切にしていた。遠方からも「年越しには夏目堂の餅が欠かせない」という常連さんたちがわざわざ買いに来るほど、地元でも評判が高かったのだ。

ふと店の方向に目を向けると、案の定、シャッターはしっかりと下りていた。父が倒れて以降、一時休業していると母から聞いていたが、こうして直接見ると堪えるものがある。鍵のかかった扉の向こう側にかつてのにぎわいが残っているようで、由香は胸がチクリと痛んだ。もし父がこんな状況になっていなければ、まだ間に合うから手伝ってくれ、と呼び出されていたかもしれない。それでも、都会での生活にかまけていた自分を責めるような気持ちが募り、そっと視線を落として歩きだす。

実家の玄関扉を開けると、奥から「おかえり」と母・祥子の声が聞こえた。久しぶりの顔合わせに少し照れくささを感じつつも、「ただいま」と答えた瞬間、内心安堵する。由香がコートを脱いで荷物を下ろすと、母は「お父さんは今日、病院で検査があるの。すぐには帰ってこられないけど、夕方には戻るって先生に言われたのよ」と言う。その言葉に、由香はやはり父の具合がまだ良くないのだと改めて実感する。母の顔にも疲れがにじんでいて、やはり看病が相当負担なのだろうと察せられた。

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