消えゆく光

21歳の佐藤健二は、日々のキャンパス生活を孤独に過ごしていた。内向的で、人付き合いが苦手な彼は、友人を持つこともなく、詩を書くことで自分の気持ちを表現していた。しかしその詩は決して誰かに読まれることはなく、彼のノートの中で静かに眠っていた。

ある日、健二は図書館に向かう途中、ふと目に留まった少女、あかりと出会う。彼女は明るい笑顔を持ち、周りの人々に自然と笑いかける社交的な性格であった。その姿は、健二にとってまるで異世界の住人のように思えた。しかし、彼女の目には隠された悲しみが瞬間的に映った。

偶然の出会いから、健二はあかりに惹かれていく。彼女との会話は彼の心に新しい光をもたらし、次第に彼は彼女に自分の気持ちを話すようになる。あかりもまた、健二の内気な性格に安心感を感じていた。二人の関係は、いつしか深まっていった。

しかし、幸せな日々の中で、あかりが抱えている秘密が徐々に明らかになっていく。ある雨の降る日、あかりは静かに健二に告げる。「私、病気なんです。」その言葉は健二の心に重くのしかかった。

あかりが患っているのは、難病であり、医者からは余命が限られていると告げられていた。健二はその事実を受け入れられず、ただ愕然とするしかなかった。それでも彼は、あかりといる限られた時間を大切にしようと決意する。二人は共に笑い、共に泣き、限られた時間を一緒に過ごすことに専念した。

しかし、時が経つにつれ、あかりの容態は悪化していく。ある日、彼がキャンパスのベンチで待ち合わせをしていると、彼女は遅れてやってきた。しかし、その時の彼女の顔色はこれまでとは明らかに違っていた。健二は心の中で何かが崩れていくのを感じた。

「ごめんね、健二。今日は少し体調が…」そう言った瞬間、あかりは健二の手をしっかりと握りしめた。彼女の手はかつての温かさを失っていた。健二はその光景に胸が締め付けられる思いだったが、言葉を探すことができなかった。

あかりは日に日に弱っていく。彼女と共に過ごす日々は本当に幸せだったが、同時にそれが終わることを考えると恐怖に襲われていた。彼女が病に冒されている間、健二は常に想いを寄せていた。彼女の笑顔、彼女の笑い声、それらが全て彼の心の拠り所となっていた。

ある晩、あかりからの電話がかかってきた。彼女は「健二、私がいなくなっても、あなたの中で生き続けるから」と静かに言った。この言葉が彼にとって最後のメッセージとなるとは、夢にも思わなかった。健二はただ涙を流し、彼女を助けてあげられなかった無力感に苛まれた。

そして、あかりが亡くなる日が訪れた。彼女は病室で穏やかな表情を浮かべていた。彼女の息が次第に浅くなる中、健二はその手を握りしめながら、ただ一つの願いを心の中で唱え続けた。「ずっと一緒にいたい」と。

あかりは彼に微笑みかけた後、静かに目を閉じた。彼女の最後の瞬間、気づいた時にはもう遅く、健二は彼女の握り返すことのできない手をしっかりと握り続けた。

彼女が息を引き取った後、健二の心にはあかりの存在が強く刻まれた。彼女の詩は彼の心の中で生き続けることを約束されていたが、彼はその詩を書く勇気を失った。詩を書くことにならない日々がまた始まった。彼は孤独とともに、あかりとの美しい思い出を胸に秘めながら過ごすことになった。

健二の心の中の光は、あかりの死とともに消え去ってしまった。彼は愛する人を失ったという大きな悲しみに包まれていた。

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