薄暗い山あいに、田島優という青年が住む小さな村があった。この村は、世代を超えて語り継がれる忌まわしい伝説を抱えていた。「過去の罪を背負った者が、毎年一人村を去る」というその言い伝えは、村の人々に重くのしかかっていた。
優は自由気ままな性格で、村の伝説に対してどこか他人事のように感じていた。村人たちが眉をひそめるたびに、彼は無邪気に笑っていた。しかし、その穏やかな日々は、ある運命の出会いによって一変する。
ある日、優は村の外れにある古びた廃屋で、一冊の古い日記を見つけた。日記の持ち主は、優の知らない悲劇的な過去を持つ女性だった。その日記には、村の秘密にまつわる記録が次々と綴られている。興味を抱いた優は、日記の内容を読み進めるうちに、村の暗い歴史と向き合うことになる。
日記によると、その女性は子供のころに目撃した「過去の罪」の現場を見逃すことができず、村人たちの圧力によって沈黙を余儀なくされていた。彼女は心に重い傷を背負い、村を去って行ったという。その話に優は心を動かされる。
日記を手に、優はより一層村の謎に魅了されていく。村人たちの様子は次第に怪しさを増し、彼の周囲から人々が消えていく。友人である佐藤や小林も、急速に姿を消していった。それは優の心に不安を呼び起こす。彼が無邪気に過ごしていた村には、知られざる重い空気が漂っていた。
優は一人っとなり、日記を通じて女性の経験を重ねていく。見えない敵、見えない過去が次第に彼の前に立ちはだかり、村人たちの表情には恐怖が浮かんでいた。彼の自由な生活が、まるで絵空事のように思えてきた。そして、彼の心の奥底にある罪の意識が呼び覚まされていく。
ある晩、村の奥の広場で彼は夢を見た。夢の中で、かつて日記の持ち主である女性が彼に囁いた。「あなたも私のように、一人去っていく運命にある」と。夢から覚めた優は、胸の中に一抹の不安が渦巻いているのを感じた。
そして、次の日。村の広場で行われた祭りに参加した優は、多くの村人たちの冷たい視線を感じた。彼らの目はギラギラと光り、何かを期待するかのように彼を見つめていた。優はその視線に耐えながら、心の中に眠っている恐怖を掘り起こし始める。
村の祭りが進むにつれて、彼は次第に村の嘘に気づき始める。村人たちは彼のことを「祝福の象徴」として扱っていた。優は自分が人々の祭りを盛り上げるための道具に過ぎないことを悟る。それは彼の明るい性格が村にとっての「災厄」であり、自分がお祭りのために戻ってくる存在だと思い込ませるための隠れ蓑だった。
混乱の中、優はさらに日記を読み進める。そこには、女性が過去の罪を背負った者としての運命を受け入れ、村のために去らざるを得なかった理由が綴られていた。優はその内容に胸が苦しくなり、自身が同じ運命を辿ることになるのではないかと恐れた。
彼の周囲の人々が次々に姿を消す中、ついに最後の一人が消えた。優は夜明け前の静かな村に一人立ち尽くしていた。彼の自由さは、実は彼を重苦しい運命から解き放っていなかったのだ。罪の意識が彼を支配し、亡き友人たちの影が彼の頭をよぎる。
最後に、日記の中に書かれていた言葉が優の心に突き刺さる。「過去の罪を背負った者が、いずれは自らも消え去る」優は、村の歴史の中で繰り返されてきた運命に、ついに自らの存在が結びついていることを悟る。自分が村にとって「忌み子」とされていたことが、真実であると認めざるを得なかった。
再び夢の中で女性が言った言葉が彼の耳にこだまする。「あなたの選んだ自由は、誰かを見捨てることでもあった。」心は絶望に包まれていく。優は自らの存在の無意味さに直面し、とうとう村を去る決意を固める。しかし、彼にとってそれは再生ではなく、さらなる絶望の始まりであった。