東京のある裕福な家、そこには石田という名の執事がいた。
彼は冷徹で無関心な性格を持ち、家族や使用人たちに対しても感情を表さなかった。
所有する銀行での成功にもかかわらず、彼の心には一切の温もりが感じられなかった。
通常の生活の中、一切の感情を取り除き機械のように働く石田の生き方は、やがて不可解な事件によって脅かされることになる。
一家の主である銀行家、田中がある晩、自宅で謎の死を遂げたのだ。
周囲には、傲慢な息子、高飛車な家政婦、神秘的な親友も揃って日ごとに不安は募る。
田中の死は、単なる不幸では片付けられない。
思いがけず石田は、事件の真相を追う決意を固めた。
彼にとって、その決意は恐怖の導火線が付いた火薬庫の中に飛び込むような行為だった。
石田は、まず息子の慎一に会う。
彼は父の死を悲しむどころか、相続のことしか頭に無いように見えた。
「父はビジネスに失敗していたのですか?」と、慎一は石田を見つめながら口にした。
その質問の裏には、ただの関心以上のものが存在しているのかもしれない。
家政婦の松井は、普段から唇を噛んでいるような不安定な表情をしている。
ボロボロのスカートが汗を吸っていて、緊張のあまり震える手つきで料理を続ける。
「何かをお探しでしょうか?」
「私…何も見えません…」
彼女の怯えた様子が、かえって石田の好奇心を煽った。
石田は、松井から得られる情報を元に再度慎一に話を向ける。「あなたはご両親との関係はどうなのですか?」
慎一は一瞬戸惑い、石田が何を思っているかを察しようとする。
「そのようなことを考えたこともありません。父はただの支配者です」石田は、自分の気持ちが託けとなり、思わぬ答えが返ってくるのを待った。
そして、慎一の背後で待っていた親友、譲二もまた、心のどこかに影を抱えているようだった。
彼はリッチでありながら孤独な人物、田中邸での立場を利用しようとする意図の持ち主だった。
石田は、この二人の関係を利用することで、更なる真実に近づくことができるかもしれないと考えた。
集まる情報の中で、田中家族の過去、特に銀行家の父が過去に関わったトラブルが浮かび上がる。
意外にも、石田がこの家に仕えたのは、父から子へ受け継がれる家族に何らかの秘密があるのではないかと察知したからだった。
生々しい証言や思惑が交錯する中、昏い真実が次々と明らかにされていく。
家族の信頼関係は崩れ、疑心暗鬼が渦巻く。
石田がすべての闇を引き寄せ、全てが狂う瞬間が訪れる。
彼は過去の自分と向き合わざるを得なくなる。
自分自身に向き合うことで、かつての自分の喪失が心に重くのしかかる。
「愛する者を失った痛みはこんなにも大きいのか」と、彼は気づく。
最終的に、刻々と真実に迫る中で、石田は自らの行動に一喜一憂することになる。
彼が探し続けた真実とは、自分自身の心の響きに他ならなかった。
驚愕すべきこと、意外にも、彼が持っていた動機は犠牲者に対する憧れと愛情があったのだ。
冷酷に見えた一面の裏にある柔らかな心を彼は見つける。
この事件の背後には、彼自身の過去の影が伴っていた。
結末は、彼の道しるべでありながら、不思議と暗い影が共生するものであった。
そこにあるのは、人間の心の在り方、そして愛の恐ろしさである。
石田の解放とは、決して明るい未来を選ぶことではなく、冷たさであることに気づくこととなったのだ。