二度目の初恋 – 第1話

カフェでの初めての再会から数週間が経過し、サトシはアイコにある提案をすることに決めた。「アイコ、君との思い出が詰まった場所を一緒に巡ってみないか?もしかしたら、何か記憶が蘇るかもしれないし、少なくとも君が失った過去10年間の一部を知る手がかりになるかもしれないよ。」

アイコは少し考え込んだ後、静かに頷いた。「わかりました。サトシさんがそこまでしてくれるなら、私も過去の自分を知りたいです。」

彼らの旅は、かつて二人が共に過ごした大学のキャンパスから始まった。春の柔らかな日差しの中、彼らは懐かしい教室、図書館、そして学生食堂を訪れた。サトシは、ある授業でのアイコの賢明なコメントが先生を驚かせたエピソードや、図書館で一緒に試験勉強をした夜について語った。

次に訪れたのは、彼らが初めてデートをした公園だった。その日はちょうど桜が満開で、公園は花見を楽しむ人々で賑わっていた。サトシはアイコに、その日のことを詳細に思い出しながら語った。「君はピンクのワンピースを着ていて、僕はその瞬間、世界で一番美しい女性とデートしているんだと思ったよ。」

アイコはサトシの話に心を動かされることが多かった。彼の話す過去の物語は彼女にとっては全く新しいものだったが、それでも彼の表情や声のトーンから、その時々の感情が伝わってきた。しかし、同時に彼女の中には混乱も生じていた。自分の記憶にない過去を受け入れることの難しさ、そしてそれが本当に自分の過去なのかという疑問が彼女を悩ませた。

ある日、彼らは友人たちと共に過ごした場所の一つ、小さな湖のほとりを訪れた。そこではかつて、友人たちとバーベキューを楽しんだり、夏の夜に花火をして過ごしたりしたことがあった。サトシは、アイコが湖に向かって大きな花火を打ち上げた時のこと、その美しさと彼女の輝く笑顔を熱心に語った。

「アイコ、君はいつも人を楽しませるのが得意だったんだ。その夜も、君のおかげでみんなが本当に幸せな時間を過ごせたよ。」

アイコはサトシが語る過去の彼女に、どこかで自分自身を見つけようとした。彼の言葉を通じて、彼女は自分でも知らなかった自分の一面と向き合い始めていた。彼らの旅は、アイコにとって過去を知る旅であると同時に、自己発見の旅でもあった。

夜、ホテルの部屋で一人、アイコはその日の出来事を振り返った。サトシと過ごした時間、彼が語る過去の物語、それらが彼女の心に新たな感情を芽生えさせていたことを彼女自身が認めざるを得なかった。しかし、それが本当に愛情なのか、それとも過去への憧れなのか、彼女にはまだわからなかった。

この旅を通じて、アイコはサトシの優しさや、彼が彼女に対して抱いている深い愛情を少しずつ感じ始めていた。しかし、自分の記憶がない中での感情は複雑で、彼女はこれから先、どのようにそれに向き合っていくべきか模索していた。彼らの旅はまだ続くが、アイコは自分の中で新たな感情と、その感情がもたらす可能性に対する期待と不安の間で揺れ動いていた。

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