追いかける光

小さな海辺の町は、明るい陽射しに包まれ、海の香りが漂っている。そんな町で、さゆりは自由気ままに日々を楽しんでいた。彼女は大学生で、友人たちとビーチで遊んだり、カフェでおしゃべりしたりするのが大好きだった。\n\nある晴れた日の午後、さゆりは海岸で波打ち際に座り、足を海に浸していた。そこへ一人の青年が現れた。彼の名は海斗。彼もまたその美しい海を楽しんでいた。\n\n「こんにちは、ここはよく来るの?」と、さゆりは明るい笑顔で話しかけた。海斗は少し照れながらも、「時々、海の音を聞きに来るんだ」と返した。\n\nその日から、彼との日々は一瞬で特別なものになった。\n\n海斗は穏やかで優しい性格を持っていたため、さゆりは彼のそばにいるだけで安心した。また、彼との会話はいつも楽しく、2人とも自然と笑顔になった。\n\n一緒にビーチを散歩し、夕日を見ながら語り合ったり、夜空の星を見上げながらのロマンチックなデートを重ねるたび、さゆりは彼との時間がかけがえのないものだと感じた。\n\n「ねぇ、海斗。私、あなたといる時が一番幸せよ」と、さゆりは彼の手をしっかり握りしめる。海斗も優しく微笑み返してくれる。
\n「同じ気持ちだよ、さゆり。」\n\nしかし、日が経つにつれ、さゆりは海斗が心に何かを抱えていることに気付き始めた。彼の笑顔の裏には、何か隠された影があった。 それが何かは、彼の口からは語られなかったが、さゆりは自分が感じる不安を押し隠し、彼を支えたいと思った。\n\nある日、さゆりは海斗を誘って特別な場所へ連れ出すことにした。\n\n「今日は、私たちだけの隠れ家的な場所に行こう」と意気込むと、海斗は少し驚いた様子で、でも嬉しそうに「いいね。」と答えた。\n\n夏の夕暮れ、さゆりと海斗は小さな岬に立っていた。海に沈む壮大な夕日が、空をオレンジ色に染め上げていく。\n\n「この景色、素晴らしいね。ずっとこの瞬間が続けばいいのに」とさゆりが言うと、海斗はじっと夕日を見つめながら答えた。\n\n「そうだね。でも、色んなことには終わりがあるから…」\n\nその瞬間、さゆりの心に引っかかるものがあった。海斗の言葉はどこか悲しげで、彼の心の奥に暗い過去があることを示唆しているように思えた。\n\nさゆりは何かを感じ、彼にもっと知りたいと思った。
\n「海斗、あなたのことをもっと知りたい。何か秘密があったら教えてほしい。」\n\n彼はしばらく黙って考えていたが、結局何も言わなかった。\n\n次の日から、さゆりは彼の心の暗い影を拭い去ろうと努力した。彼への愛情は深まるばかりだが、同時に不安も増していく。\n\n海斗の心にあるトラウマや家族の事情、それが二人の未来を脅かすかもしれないと考えると、さゆりは次第に彼から遠ざかりたくなる自分がいた。\n\nそれでも、彼と離れることはできなかった。一緒にいること自体が、彼女にとって唯一の幸福だったからだ。\n\nしかし、毎日のように過ごす中で、さゆりの心は少しずつ痛むようになっていった。海斗の心に触れた時、彼が語らない過去や秘密が、さゆりの心を重くした。\n\n「私もあなたのことを支えたい。でも、その光が消えてしまうのが怖いの」と自分に言い聞かせる時もあった。\n\nそれでも、さゆりは彼との幸せな瞬間を大切にし続ける。\n\n海斗の笑顔、優しい声、彼と一緒に過ごした全ての冒険は、さゆりにとって大切な思い出となった。\n\nだが、その平穏は長くは続かなかった。\n\nある日、海斗は突然、さゆりに向かって言った。
\n「さゆり、僕はもう一緒にいられないかもしれない。」\n\n言葉を聞いた瞬間、さゆりの心は一瞬で凍りついた。\n\n「どうして?何があったの?」彼女の声は震えていた。
\n「ごめん。僕の過去が、君を巻き込むことになると思う。君を守りたいから…さよなら。」\n\n彼の言葉が終わる前に、さゆりは彼の手を掴んだ。\n\n「待って!私、あなたを支えるって決めたのに…」\n\nしかし、海斗は悲しそうな目をして、その手を振り払った。\n\n「君にはもっと素敵な未来が待っているよ。」とだけ言い残し、立ち去った。\n\nその瞬間、さゆりの心は張り裂けるようだった。\n\n彼と過ごした楽しい思い出が、今は胸の奥で大きな痛みとなって響いている。\n\n青い海が目の前に広がってはいるが、その輝きは彼女にとってもう美しくは見えなかった。\n\n「さよなら、海斗…」\n\n一人、その場に立ち尽くし、さゆりは春の海を見つめる。\n\n明るい光の中で交わることのなかった二人の道は、もう戻ることはない。彼女の心には愛の影が暗く立ち込めているのだった。