青い花の記憶

静かな田舎町。その美しい風景の中に、さくらは住んでいた。彼女は控えめで内気な女子大学生。小さな花屋でアルバイトをしながら、常に夢見がちな心を抱えている。

彼女の心には、色とりどりの花々のように複雑な感情が咲いていたが、友達も少なく、誰にも話せない孤独感を抱えていた。そんな毎日が続く中、大学の講義で康太という同級生に出会う。彼は明るくて社交的、周りにはいつも友達がいて、まるで太陽のような存在だった。

最初の講義の日、さくらは彼が笑顔で周りの友達と話している姿を見て、心がホッとした。しかし同時に、その明るさに圧倒され、どう話しかければいいのかわからなかった。

ある日、思い切って康太に声をかけた。彼の優しい笑顔に「こんにちは」と言った瞬間、さくらの心臓はバクバクと音を立てた。康太は楽しそうにさくらに返事をし、二人の会話が始まった。ゆっくりとした時間の中で、彼女は徐々に心を開き、彼のことをもっと知りたいと思うようになった。

花屋でのアルバイト中に、二人は少しずつお互いのことを話すようになった。康太はさくらの内面の美しさに気づき、彼女の反応を見るのが楽しかった。さくらは康太との会話が好きだったし、彼といる時間がとても心地よかった。彼女はその日々を夢のように思い、彼の笑顔に何度も心を奪われた。

しかし、その幸せな日々の背後に、さくらの心の奥には恐れがあった。
康太には、夢を追いかけるために東京に行く計画があった。彼女は彼の幸せを思うが、自分の気持ちを告げることができず、なぜか悔しさが胸を締め付けた。

「康太、私はあなたのことが好き。にもかかわらず、別れが近づいていることを考えると…」

さくらは、言葉を飲み込んでは、ひとり涙を流す夜を過ごした。出会って間もない自分が恥ずかしくもあった。どうして、彼と出会ってからこんなにも心が揺れ動いているのだろう。彼女は自分の心に潜む感情と闘っていた。

別れの日がやってくると、ついにその時がやってきた。康太は空を仰ぎながら、少し曇った表情をしていた。「さくら、俺は頑張って夢を追いかけるよ。そのために、こっちを離れないといけないけど、」

康太は少し口を噤み、もう一度さくらを見つめた。

「どうしても忘れないでいてほしいことがある。」そう言いながら、彼はさくらに一輪の青い花を手渡した。
その瞬間、さくらは思わず涙をこらえた。「思い出してほしい」と告げる康太の声が、彼女の心に深く響いた。

さくらは、その花がどんなに美しいか知っていた。いつも花屋で青い花を見て、「いつかこの花を大切な人にあげたい」と思い描いていた。しかし、その思いがこんな形で実現するとは思いもよらなかった。

康太の背中を見送りながら、彼女は彼との思い出を心に刻み付けた。波の音のように、思い出は心に響き続ける。

一人残された花屋では、青い花を手にしたさくらは、康太との出会いを思い返す。
彼との会話や笑い合った瞬間、何気ない日常の中に隠れていた彼の優しさが、一つ一つ心に甦る。その度に彼女は微笑み、同時にひとしおの切なさが襲ってきた。

別れた後も、孤独感が彼女を包むことはあったが、康太との出会いを通じて少しずつ自分を受け入れていった。
「もっと自分を大切にしなければ」と思うようになった彼女は、花屋での仕事にも笑顔を増し、他人との関係を築くことを試みる自分がいた。

康太がくれた青い花の記憶は、彼女にとっての灯台のような存在であり、彼女が一人じゃないことを教えてくれた。
その思いが彼女の心の深くに寄り添い、いつまでも彼女の中で生き続けるだろう。

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