夢の吐息

月影町には、古い伝説があった。それは、流星群の夜に願いをかけることで願いが叶うというものだ。高校を卒業するための大切な年、咲はその伝説を信じていた。

彼女は内気で人見知りの性格を持ち、周囲の人々との距離を保つことが常だった。しかし、心の中には大きな夢があった。彼女は同じ学校の人気者、光に恋をしていた。光は明るく、みんなを笑顔にする存在だった。咲はそんな彼に近づけることすら恐れていた。

毎日、咲は放課後に古い神社へ足を運んでいた。薄暗い森の中を抜け、静かな境内へと出る。それは彼女にとって、安らぎの場所であり、同時に心の中の願いを込める特別な空間だった。流星群の夜を待ち望みながら、咲は一人で静かにその瞬間を心待ちにしていた。

ある日、運命の日は突然に訪れた。光と偶然に出会った瞬間、彼女は心臓が高鳴るのを感じた。光は彼女の視線に気づき、優しい笑顔を向けてくれた。咲はその笑顔に引き寄せられ、思わず言葉をかけた。二人は自然と会話を交わし、同じ未来について夢を語り合うことができた。

彼との会話は、咲の心に光をもたらした。以前のような恐れが少しずつ薄れていき、初めて人と普通に接する喜びを感じた。光が自分の気持ちを理解してくれるかもしれないと、彼女の希望は次第に膨らんでいった。

しかし、その希望が満ちる一方で、咲の心の奥には常に不安があった。彼と友達になったばかりなのに、彼に自分の気持ちを伝えるなんて到底できないと自分を責める日々。彼との距離が近づくほど、伝えられないことが苦しくなった。

流星群の夜が近づく中で、咲は思いついた。彼に自分の気持ちを告げる最後のチャンスなのだと決意した。しかし、告白の前に浮かぶのは冷たく拒絶される恐怖。自分の気持ちが拒絶される可能性を考えるたびに、咲の心は折れそうだった。

流星群の夜、月影町の空には無数の星が瞬いていた。咲は神社に立ち寄り、星の光を見上げていた。少し緊張しながらも、胸の高鳴りを感じていた。この瞬間こそが、彼女の運命を変えてくれると信じていた。少しでも光を感じることができれば、きっと自分の秘密を打ち明けられるはずだと。

神社に向かうと、光もその場にいた。彼女の心臓はドキドキと大きく響いた。彼の隣に立ち、一緒に流れ星を見つめながら、彼女は自分の思いを告白する決心をした。しかし、やはり彼に言葉をかけるのが怖くて、咲はその時を待った。彼が振り向き、彼女の瞳に映る星々を見つめ返してくれることを願った。

しかし、その願いは叶わなかった。光は咲の視線を感じ取り、何かを期待しているのがわかると、彼の口が開いた。「咲、俺たち友達でいよう。」その言葉は、まるで鋭い剣のように咲の胸を刺した。友達以上の関係にはなれないという、その一言で彼女の心の中に冷たい風が流れ込んできた。

流星群が夜空を彩り続ける中、咲はその美しさを目にしながら、心の中は崩壊していく感覚を覚えていた。彼女の目には涙が浮かび、望んでいた願いは砕け散った。光の言葉は、計り知れない孤独感を彼女にもたらしたのだ。流星が射抜く光の道に、彼女の願いは永遠に流れていった。

その夜、咲は月影町の星空を見上げていた。かつての自分の夢が、彼女を包み込む星々の中に溶けていく。夢は彼女にとって美しく、同時に冷たい現実に変わってしまった。光との関係が深まることはなく、彼女の心の内でくすぶる思いは、いつまでも残り続けるのだった。

タイトルとURLをコピーしました