潮騒のメロディー – 第1話

閉ざされた心

春の新緑が学校を包み込む中、悠は音楽室で子供たちと練習をしていた。彼の指導の下、子供たちは一生懸命楽器を演奏している。その中でも、一人の少女の姿が目立つ。彼女は詩織という。他の子供たちが楽しそうに演奏している中、詩織だけは無表情で音楽から距離を取っているように見えた。

詩織は学校での生活でも孤立していた。休み時間、彼女は一人で教室の隅に座り、窓の外を眺めていることが多い。他の生徒たちは彼女を避けるようにしていた。何か重い過去を背負っているのか、それとも何か理由があるのか。悠は彼女に興味を持ち始めていた。

ある日の放課後、悠は海辺を散歩していると、遠くの岩場に詩織の姿を見つけた。彼女は静かに海を見つめていた。その姿はとても孤独そうで、悠の胸に何かが響いた。



詩織の家には、彼女の部屋の隅に母親のギターと歌詞のノートが置かれていた。それを見るたびに、彼女は深い悲しみに包まれていた。母親はかつてこの港町で有名なシンガーソングライターだった。しかし、数年前に病気で亡くなってしまった。その死は詩織にとって大きな打撃となり、彼女は音楽から遠ざかってしまったのだ。

翌日、悠は音楽室で詩織に声をかけることにした。彼女の音楽への距離感や冷たさが気になっていた。しかし、彼の声を聞くと、詩織は突然悠の目を見つめ、涙を流し始めた。

「私はもう音楽なんて…」

彼女の言葉は途中で途切れた。悠は彼女の痛みや悲しみを感じ取った。彼は詩織の手を握り、優しく声をかけた。

「大丈夫、一緒に音楽を楽しもう。」

詩織はしばらく無言で悠を見つめていたが、次第に彼の言葉に心を開いていくのだった。この出会いが、二人の運命を変えるきっかけとなることを、まだ誰も知らない。

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