星の涙 – 第2話

机に積まれた本を前に、桜は覚悟を決めるように深呼吸をひとつ。背後で先生が扉をそっと閉め、二人きりの空間が生まれる。ページをめくる音だけが響く中、桜は地誌に記された「深山の洞窟」「星の欠片」という断片的な情報を書き留める。次に詩集を開くと、遠い恋人たちが夜空に涙を流したという寓話が綴られていた。

しかしどちらも具体性には欠けていた。「ここからどう手がかりを見つければ……」と唇をかむ桜の目に、ふと手紙の裏面がちらりと映る。彼女は急いで手紙を取り出し、裏側を確かめた。そこには細い線で、かすれた筆跡がひとつだけ走り書きされていた。

――深やま郷

「深やま郷……?」桜は息を呑み、再び地誌に視線を落とす。しかし、その地名は載っていない。孤児院では誰も知らず、自分以外の手がかりはないようだった。震える声で「これが母の私だけへのヒント……」とつぶやき、ノートに大きくその地名を書き込む。

昼下がり、図書室を出た桜は心の中で問いかけた。――深やま郷は、どこにあるのだろう? 母はそこで何を見つけ、何を願ったのだろう? 膨らむ疑問と期待が胸を満たし、桜の目は遠くに向かって輝きを帯びる。

夕暮れ、孤児院の屋上に立った桜は、手紙とメモ帳、筆記具をポケットにしまい込む。遠く山並みに沈む夕陽を一瞥し、固く決意した。母の声を追い、深やま郷へ――その名も知らぬ場所へと足を踏み出すのだ。次なる旅の始まりを前に、桜の心は静かに燃え上がっていた。

第1話 第2話

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