東京の薄暗い裏通りにひっそりと佇む古びたアパート。その一室に住む智樹（ともき）は、自身の内に秘めた冷酷さを感じさせる青年だった。彼の表情は常に無表情で、周囲の喧騒から隔絶されたように過ごしていた。智樹の心の奥深くには、忘れられない過去の悲劇が眠っていた。父親の自殺、それが彼にとっての家族喪失の瞬間であった。
智樹は、自らの感情を抑え込むことで冷たい性格を形成していった。愛する人の死を乗り越えられず、彼は社会との接触を避け、人との関わりを拒んでいた。彼の周囲には空虚感が漂い、日々の生活は淡々と続いていた。だが、そんな彼の日常は、ある出来事によって一変していく。
一つの朝、智樹は近所のカフェで奇妙な噂を耳にした。「古いアパートに住む住人が失踪した」というのだ。その噂には不気味な空気が漂い、周囲の人々は何か恐ろしいことが起こったのではないかと不安を煽っていた。智樹はその話に対して無関心を貫こうとしたが、彼の心の奥底で何かが揺れ動いていた。
その日の夕方、住人の友人と名乗る女性が智樹のもとを訪れる。彼女の目には不安と絶望が色濃く浮かび、かつての自分を重ねた智樹は、思わずその視線を受け止めてしまった。「私の友人が行方不明なの。どうか、彼を探してほしい。」彼女の言葉が、智樹の心に少しずつ侵入してくる。
事件が進むにつれ、智樹は次第にその真相に引き寄せられていく。失踪した住人の身に何が起こったのかを知りたいという欲求が、彼の心を刺激した。数日後、彼はアパートの周囲を調べることに決めた。
薄暗い路地を歩き、智樹は失踪した男の部屋を訪れる。中は荒れ果てており、何かが起こった痕跡があった。彼は部屋の中に残されているものを注意深く調べ始めた。そこで彼が見つけたのは、日記といくつかの写真だった。
日記には、彼の父親の自死との関連が示唆される内容が綴られていた。脅かされるように、智樹は頭の中で疑念が渦巻く。もしかしたら、この失踪事件は自分の過去と関係があるのではないか。
智樹はこの事件の真相を追いかけるうちに、自らの抱えるトラウマと向き合うことになった。父親の自殺、家族を失った苦痛、それが今ここに繋がっているのではないかと、彼の中で何かが繋がり始める。
捜査を進める中で、智樹は失踪した男の友人や知人から話を聞くことにした。様々な証言に耳を傾けるうち、次第に暗い真実が浮かび上がってくる。それは、男が抱えていた深い孤独と苦悩であり、もしかしたら彼もまた自らの命を絶つ選択をしていたのかもしれないという恐ろしい想像だった。
数日後、智樹はとうとう失踪事件の核心に迫った。男が前に住んでいた部屋には、かつて彼の父が自殺した際の残されたものが存在していた。それを見つけた時、智樹は悟った。全ては繋がっているのだ。
この失踪事件は、家族を失い、孤独な影を背負う者同士の物語だった。しかしその真実を知った智樹は、自分の身を引き裂かれるような痛みを覚える。
やがて夜が訪れ、智樹はアパートの屋上に立っていた。そこから見下ろす東京の街に、彼は冷んやりした感情と共に孤独を感じた。何もかもが繋がり、何もかもが失われていく。
最終的に、智樹は再び家族を失うという運命に向かって進むことになる。彼の心の闇は、決して光を見出せないまま、翠色の夜景に溶け込んでいった。彼の存在は次第に周囲の人々の記憶から消え、故郷の影のように暗闇に埋もれていく。
そして、彼は孤独な影となり、東京の闇に消えていった。彼の心に深く残る悲劇と苦悩は、もはや誰も触れることのない悲しい物語として、裏通りの隅に静かに埋もれ続けた。
