夜の記憶 – 第1章

プロローグ

エリカは、夢と現実の境目に囚われているような感覚を抱えたまま、朝を迎えた。昨晩もまた、あの森の夢を見たのだ。目を覚ました瞬間は鮮明だった映像も、時間が経つにつれて曖昧になる。それでも、祠の輪郭や苔むした木々の感触、背後に迫る得体の知れない存在の恐怖は、消えることなく胸に残っている。

彼女はダイニングテーブルの上に置かれた新聞を手に取った。昨晩の記事が頭から離れず、再び内容を読み返す。亜沙子という名の若い女性が失踪した事件の概要が、細かく記されていた。エリカは記事の隅に掲載された、森の写真に目を留める。そこには、自分の夢に出てくる場所と同じ木々や祠の影が映っていた。

「これ、本当に偶然なの?」エリカは自分に問いかけるように呟いた。

しかし、そんな疑問を抱えていても答えが出るわけではない。エリカはコーヒーを片手にパソコンを開き、日課である記事執筆に向かおうとした。フリーライターとして生計を立てている彼女にとって、毎日記事を書くことは重要な仕事だ。しかし、今日はどうしても集中できない。頭の中には夢の光景と記事の内容が渦巻いている。

「ちょっと散歩でもして、気分転換しようかな……」

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