古びた手紙の秘密 – 第1話

アカリは玄関に靴を脱ぎそろえながら、久しぶりに戻ってきた実家の空気をゆっくりと吸い込んだ。祖母が亡くなってからまだ日が浅いというのに、家の中はまるで時間が止まったかのように静まり返り、あのいつも元気に笑っていた祖母の姿がすぐにも出迎えてくれそうな気さえする。けれど、リビングのテーブルに置かれた祭壇の写真は、もう二度と戻らない現実を否応なく突きつけていた。葬儀も終わり、形式上の区切りはついたはずだが、アカリの心はまだ祖母の死を受け止めきれずにいた。

「ごめんね、しばらく休みも取れなくて。」そう言ってリビングに入ると、アカリの母が小さく首を振った。「いいのよ。忙しかったでしょうし、ばあちゃんもアカリが来てくれるだけで喜んでるわ。」母はそう言いながらも目の下にうっすらと疲れが浮かんでいて、葬儀の準備や来客の対応に追われた苦労が見てとれた。アカリは「私にできることがあったら、何でも言ってね」と言い、まずは祖母の部屋の片付けを申し出た。母が少し困ったような顔をしたのは、そこに祖母の生前の思い出がぎっしりと詰まっているからかもしれない。

廊下の奥にある祖母の部屋は、明るい和室だった。押し入れには古い布団や座布団が積まれ、タンスの上には昭和を感じさせる桜模様の小さな鏡台がある。アカリは部屋に足を踏み入れると、微かに漂うお香の匂いに懐かしさを覚えた。幼い頃は、夏休みになるとここで祖母に浴衣を着せてもらい、お祭りに連れて行ってもらったことを思い出す。「あの頃はまだ、ばあちゃんも若かったよね…」そう呟くと、胸の奥にじんとした熱いものが込み上げてくる。しかし今は涙に浸る時間ではないと自分に言い聞かせ、タンスの引き出しを一つひとつ開けて整理を始めた。

古い写真や小物を整理しているうちに、奥の方からひときわ色褪せた封筒が目に入った。そっと取り上げてみると、差出人の欄には「カズマ」とだけ書かれており、消印もだいぶ昔のものらしく判別しづらい。開いてみると、封筒の中には薄い便箋が数枚入っていた。そこには祖母の旧姓を呼びかける言葉で始まる文面があり、筆跡にはどこか熱い感情がにじんでいる。「いつかまた、あなたに会える日を信じています」「どうしても伝えたいことがある」そんな切実な一文に、アカリは息をのんだ。祖母は自分にとって、いつも優しくて穏やかな存在だった。ところが、この手紙に込められた想いは、まるで祖母のもうひとつの顔を見せるかのように情熱的だった。

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