古びた手紙の秘密 – 第1話

読んではいけないものを読んでしまったのではないか、と一瞬ためらいもあったが、既に祖母はこの世にいない。だが読んでいくうちに、祖母が誰にも明かさなかった過去をずっと抱えていたのかもしれないと感じられ、その秘密に触れることがアカリにはなぜか切なく、そして少しだけ怖かった。それでも最後まで目を通すと、「あなたが幸せでありますように」というしめくくりで文章が終わっている。祖母が生前、何度も口にしていた「人の幸せが自分の幸せ」という言葉と重なる部分があり、そこに祖母らしさを感じた瞬間、アカリの胸は強く締めつけられた。

部屋の片付けをひとまず切り上げたアカリは、リビングで夕食の支度をする母に声をかける。「ねえ、お母さん。これ、見たことある?」そう言って封筒を差し出すと、母は怪訝な顔をしながら受け取る。「なにこれ?…カズマ?」母は聞き覚えのない名前に首をかしげた。「ばあちゃんの部屋のタンスから出てきた手紙なんだけど…差出人はカズマって人みたい。中身には、ばあちゃんへの想いが綴られてた。」アカリがそう説明すると、母はさらに首をひねるばかりだ。「うーん、初めて聞くわ。父さん(アカリの亡き祖父)の名前でもないし、親戚でもない。いったい誰なのかしら。」

母が封筒を眺めたまま考え込んでいるので、アカリは見つけたときの状況を詳しく話してみた。古いタンスの奥底に隠されていたこと、手紙の文体は祖母がまだ若かった頃を思わせるものだったこと。すると母ははっと思い出したように、「ばあちゃんの若い頃って、確か港町に住んでたことがあったって聞いたわ。私が生まれる前の話だから詳しくは知らないけど…」と口にする。アカリはその言葉を聞いて、心の中で何かが繋がった気がした。手紙の差出人は港町に縁がある人なのかもしれない。そう考えると、アカリの胸に得体の知れない興奮が込み上げてくる。

「ねえ、お母さん。このカズマさんって人を探してみようと思う。なんか、ばあちゃんがずっと抱えてた想いがあるような気がしてならないの。」アカリが真剣な目で言うと、母は少し驚いたような顔をした。「そこまでしなくても…ばあちゃんはもう亡くなったのよ。今さらそんなことを探っても、誰が喜ぶのか…」確かに母の言うとおりかもしれない。けれどアカリには、祖母が生前に語らなかった過去の恋を知りたいという気持ちが、理屈抜きで湧いてきていた。どんな思いでこの手紙をしまい込み、人生を歩んできたのか。祖母はいつだって幸せそうに見えたが、もしかすると誰にも言えない後悔を抱えていたのかもしれない。

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