失敗した運転手の運

カズオは東京の片隅で暮らす無職の若者。彼はいつも陽気で、周りを笑わせることが得意だ。ある日のこと、彼は友人たちと集まり、新しいビジネスアイデアを思いつく。それは「人間タクシー」という、運転手が乗客を楽しませる運転サービスだった。彼の友人たちは驚きつつも賛同し、夢を語っていた。

「カズオ、これ面白いんじゃない?」
と友人のユウジが言うと、カズオは自信満々に頷いた。

「そうだ!私は面白い話が沢山あるから、絶対に楽しませてみせる!」

こうして始まったカズオの「人間タクシー」には、多くの期待が寄せられたが、実際に始まると悲喜こもごもな展開が待っていた。

最初の乗客は会社員のナオキ。カズオは自己紹介から始め、ナオキの体験談を引き出しながら運転することにした。しかし、カズオが自慢の失敗談を話し始めると、ナオキの顔が凍りついた。

「早く着いてくれよ…」

カズオの話の最中、道に迷った彼は更にトンデモナイ方向へ進んでしまった。移動時間は倍増し、ナオキの怒りが爆発した。

「もういい、目的地言ってくれ!」

カズオは必死に面白い話を続けたものの、ナオキの不満は積もる一方だった。結局、何とか目的地にたどり着いた時、ナオキはカズオに料金を払うことを拒否。怒りながら降りていった。

「ついてないなあ」

彼は憔悴しきった様子で、次の乗客を迎えに行った。今度は若いカップルだったが、その二人もカズオの即興トークには興味がなかった。

「ねえ、カズオさん。運転中に話はいいから、早く着きたいんだけど…」

彼らも目的地には早く着きたいという要望があり、カズオの「芸」を評価するどころではない。本当にギャグが尽きて困っていた。

失敗談を交えつつ、運転を続けるカズオは、次第に乗客の顔が暗くなっているのに気が付いた。そんな時、カズオはまた道を間違えてしまい、今度は深夜の繁華街に迷い込む。

「ここどこ…?ああ、もう運転やめようかな!」

その夜、カズオは運転手としての意欲を完全に失ってしまったように感じた。しかし、運転を続ける他に選択肢はなかった。乗客たちは彼の後ろで不安そうに手を叩き、ただ早く終わらせることばかり考えていた。

結局、カズオの「人間タクシー」ビジネスは乗客の不満の声を浴びることになり、運転免許も取り消されてしまう始末。彼の楽観的な性格も徐々に失われていった。

「何が悪かったんだろう…」

彼は幽霊のように呆然としていた。運転していた頃の喜び、友人たちとの笑い声は全て遥か昔のようなものに思えた。友人のユウジは困惑しながらも笑顔で彼を励まし、次は真剣に仕事をしようと提案したが、カズオはその言葉に浮かぶ笑顔を見せることができなかった。

「実は心配かもしれない…でも仕事する気力ゼロだ…」

彼は思った。その瞬間、カズオの中で何かが sきを崩壊し、喪失感に包まれた。楽観的で、明るく過ごしていた彼は、運転手としての夢が潰れてしまったことに悲しんでいた。

「次はきっと成功する!」と無理に笑う自分に、心の奥底では涙が募る。

こうしてカズオの「人間タクシー」は失敗に終わり、彼の運転士としての夢は霧散した。時折思い出される「人間タクシー」の提案は、今のカズオには痛々しい記憶として残るだけだった。 

彼はただ立ち尽くすしかなかった。笑顔を求められることもなく、ただ一人、明るさだけが取り柄だった自分を反省する日々。

終わりの見えない運の悪さが彼を飲み込み、心の中で高鳴っていた希望の灯火も消えてしまった。もう少し真剣に、真の運転手になるための次のステップを考えなくてはいけないのかもしれなかった。だが、カズオはその一歩を踏み出す気力すら失ってしまっていた。

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