近未来の国、アポリス。魔法と科学が共存するこの国は、一見理想的な世界のように見える。しかし、そこには見えない亀裂が走っていた。魔法使いと非魔法使いの間には深い対立が生まれていた。
その中心にいたのが、若き女性エリナだった。彼女は、魔法使いになる夢を抱き、日々魔法学校で勉強に励んでいた。エリナの目は、夢への強い情熱で輝いていた。だが、学校に通ううちに、この国の抱える矛盾に直面することになる。
魔法使いの間での優越感、非魔法使いに対する軽蔑の感情。エリナは、そのどちらにも属さない普通の少女だった。彼女は、自分が魔法を使えないわけではないが、何かが違うと感じ取っていた。学校のクラスメートたちが魔法の力を誇示する中、彼女はひたすら背景に隠れ、必死に追いつこうとしていた。
ある日、エリナは図書館で古い巻物を見つけた。それは、かつてこの国を治めていた王国の伝説を記したもので、魔法の起源と、その力が人々をどのように分断してしまったのかを描いていた。巻物の中には、魔法使いが自らの欲望のために魔法を利用し、非魔法使いへの圧力を強めた結果、国が分裂していったという衝撃の事実が記されていた。
彼女はそれを読み進めるうちに、胸の中で何かが燃え上がるのを感じた。魔法の力が悪であったとは言わないが、魔法使いたちが作り上げた世界は、確かに誰かを犠牲にして成り立っていた。エリナは、この真実を仲間と共有しなければならないと決意した。彼女はこの知識を広めることで、少しでも対立を和らげ、自身が信じる理想の世界を築こうとした。
だが、エリナの決意は思わぬ結果を招いた。彼女は友人たちに話をしたが、彼らはその話に恐れを抱き、逆に自分たちを守るためにエリナから距離を置くようになった。魔法使いたちの間に亀裂が生まれ、教育者たちも彼女に警告を発した。
「その話を広めるのは危険だ、エリナ！」
彼女の教師は、彼女を心配するあまり声を荒げた。「人々は真実を恐れ、あなたを軽蔑するだろう。黙っていた方が良い。」
しかし、エリナの決意は固かった。彼女は持ち前の勇気を振り絞り、言葉を発した。彼女の声は、教室の中でもマイクのように大きく響き渡った。
「魔法の力は、分断を生むものではなく、つながりを持つはずです！私たちは、それを忘れてはいけません！」
その言葉に、周囲は沈黙した。やがて、冷たい視線が彼女に集まった。魔法使いたちの怒りが彼女を襲ったのだ。
友人たちまでが彼女を避けるようになり、孤立感が彼女を包んだ。エリナは、周囲から受けた恐れや非難に傷つきながらも、真実を伝えることに執着した。彼女の心の中で、真実を語ることの重さが日々増していった。
しかし、エリナの勇気は最終的に孤独を生むだけだった。彼女は、魔法使いからも非魔法使いからも距離を置かれ、まるで透明人間のように存在を消された。彼女は叫び続けたが、その声は空に消えていった。
時間が経つにつれて、彼女の周囲で起こる騒動に彼女自身が巻き込まれることは少なくなった。エリナは教室で一人、喫茶店で一人、涙を流すことさえできずにいた。
最終的に、彼女はどちらの側にも受け入れられず、自分自身を見失ってしまった。魔法使いたちの間で増え始めた敵意は、エリナを逆に魔法の力を持たない者たちからも孤立させた。
エリナの信念は、声無き者たちの夢や未来を守ろうとするものであったが、周囲の人々はその意志を理解することができなかった。
分断されたアポリスの大地は、彼女の孤独を映し出していた。人々は、魔法の力に対する恐れからエリナを捨て、彼女は自らの選んだ道を歩み続けた。
悪化の一途を辿る国の姿を目にしながら、彼女の信念は揺らぐことなく心の中に根付いていったが、その代償は計り知れなかった。彼女は自身の信じる道を進みながらも、その先に待ち受ける運命を知る由もなかった。
