亡霊の街 – 第6話

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佐伯は再び図書館や大学の研究室を渡り歩く日々を送っていた。夜になると亡霊の気配が自分の意識に割り込もうとする不気味な感覚を抱えつつも、昼間はできるだけ客観的かつ理知的に調査を進めようと努めていた。大火災後の行政資料や当時の社会状況を示す古い文献が散見されるが、それらはどれも断片的で、肝心な部分が抜け落ちているという印象が強い。そんな中、とある大学の歴史学者に紹介された“古い報告書”が目を引いた。そこには、大火災後の街が一時的に「処理の難しい廃棄物置き場」として利用されていたという衝撃的な記述があった。

「これじゃあ、住民が戻れる状態じゃなかったってことか……」

佐伯はその学者に向かって静かに問いかける。相手は小柄な初老の男性で、分厚い眼鏡をクイッと直しながら低い声で返した。

「表向きには“公害対策の一環として仮置き場を設ける”という名目だったそうですが、実態はかなりずさんだったようです。さらに、火災時に行方不明になった遺体の多くは正式な回収が行われず、結局どこへ消えたか不明のままだとか。これはあくまで“うわさ”として残された記録ですが、実際のところ相当な闇があったのでしょう」

さらに深く調べると、行政がこの街全体を土地開発のためにいずれ取り壊そうとしていた形跡が浮かび上がる。救助活動が後手に回ったのも、将来的に“利用価値のある計画”を進めるため、事実上見捨てられたという噂があるというのだ。大火災からの復興をきちんとしなかった背景には、そうした利権や権力者の思惑が絡んでいたらしい。資料を読み進めるうちに佐伯は血の気が上がるのを感じ、同時にひどく虚しい気持ちにもなった。

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