亡霊の街 – 第5話

そんなある晩、どうしても眠れずに街の路地をさまよっていると、突然目の前に焼け焦げた衣服を纏った人影が浮かび上がった。想像を絶する恐怖に、佐伯は声も出せない。黒くすすけた肌とただれたような顔が微かに見える。まばたきの間に消えてしまいそうな、その輪郭が宙に浮いているかのようだった。思わず後ずさると、亡霊は口の端をゆがめるように動かし、微かに言葉を発した。

「……助けて……ここから出して……」

その声は人間のものというよりも、風に乗って届く嘆きのように聞こえる。佐伯が「何を……どうすればいいんだ……」と問いかけようとした瞬間、次の瞬きの間に亡霊の姿は消え失せていた。まるで生々しい幻だったのかと疑いたくなるが、路地の壁にはまだ焦げついた指先の痕のようなものが残っている。何とか呼吸を整えようとしても、胸の鼓動がなかなかおさまらない。

翌朝、佐伯は小野寺と連絡を取り、事の顛末を伝えた。小野寺は深刻な顔でデスクに向かいながらノートパソコンを開き、同時に佐伯を促す。

「聞いていて思うんだが、その亡霊はただ脅かしているわけじゃなくて、自分たちの魂が街に囚われていることを訴えてるんじゃないか? 『助けて』『ここから出して』なんて、まるで閉じ込められているみたいだ」

「その原因が何なのかは分からないけど、昔の大火災が大きく関係しているのは間違いないだろう。最近わかったのは、当時の行政が住民救助や復興に消極的だったって話だ。大規模な土地開発計画が動いていて、災害地域をわざと見捨てた可能性があるっていう……」

佐伯の声に怒りがにじんだ。もしそれが事実なら、人為的に“街ごと葬られた”被害者がいることになる。そんな事実があったにもかかわらず、行政は公表どころか隠蔽を図ったのではないか。

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