亡霊の街 – 第5話

「封鎖が行われているのも、その怪異を隠すためかもしれない。亡霊が出るという噂を本格的に広めたくないんだろうな。当局はおそらく、あの街で何か再び起きていることを知っている。だからこそ、軍隊のような警備で外部から遮断しているわけだ」

小野寺は深く息を吐く。

「警察もあまり動けない。ましてや俺たちが記事にしようとすれば、どんな圧力がかかるか分からない。ただ、黙っているわけにはいかないだろう? 亡くなった人たちの無念を解き明かすのは、俺たちの仕事だ」

佐伯は頷きながら、空になったコーヒーカップを見つめた。確かに真相を白日の下にさらすことがジャーナリストの使命だが、封鎖区域にまつわる不可解な力を無視できない段階に来ている。亡霊たちは本当に助けを求めているのか、それとも自分たちを引きずり込もうとしているのか。ここ最近の体調不良や意識の混濁は、街の呪いによるものではないのか。考えれば考えるほど、自分の意志を蝕んでいくような不安を拭えない。

それでも、手をこまねいているだけでは何も解決しない。あの焼け焦げた姿の亡霊が放った言葉が耳にこびりついて離れない以上、“街に囚われた魂”というキーワードを無視するわけにはいかなかった。なぜ大火災で亡くなった人々の魂は救われず、街に囚われ続けているのか。まるで閉じ込められた幽霊たちの巣窟のようになったその土地に、一体どんな闇が潜んでいるのか。答えを求めるほどに、危険の香りは強まっていくが、それでも佐伯は後戻りできない気がしていた。

小野寺は画面を睨みながら口を結ぶ。二人とも、この先にあるのが平穏な結末ではないことをうすうす感じ取っていた。退くか進むか——選択を迫られる瞬間が近づいているように思えてならない。封鎖された街と、その背後でうごめく行政や当局の動き。亡霊たちが助けを求める先には、まだ誰も知らない残酷な事実が隠されているのではないか。自分の身に迫る危険を意識しながらも、佐伯はあの焼け焦げた亡霊と交わした視線を思い返し、改めて取材を続ける決意を固めていた。

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