深海の叫び – 第2章:暗闇の影 後編

「ローレンス博士、その仮説は面白いですが、我々はまず客観的なデータに基づかなければならない」と、斎藤は慎重に反論する。「心理的な影響は否定できませんが、感覚論に偏りすぎると、我々の判断は危うくなります。今は、システムが記録した全てのセンサー情報を詳細に照合し、異常値の出所を解析することが急務です。」

ローレンスは、深く頷きながらも、再び画面に集中した。「確かに。だが、このエネルギーの変動は、ただの偶然のノイズとは明らかに異なります。私たちが接触した物品は、心理面だけでなく、物理的な現象としても作用しているのです。例えば、部屋内の温度変化、微妙な振動、さらには磁場の乱れ……それらは、全て統一されたリズムを奏でています。」

その時、通信担当から突然の緊急報告が入り、船内にさらに緊張が走った。「斎藤さん、こちらに新たなセンサーデータが届きました。昨夜からの継続的な異常信号が、特定の区間で急激に増幅していることが確認されました。隊員の一部に、短時間ながら意識の揺らぎと心拍数の急上昇が見られるとの報告も入っています。」その声は、かすかに震えていたが、内容は明白であった。

斎藤は、すぐさま手元の操作パネルに向かいながら、「了解。すぐに全隊員に現状を伝え、個々の健康状態を再確認するよう指示しよう。私たちは、このエネルギー変動の正体と、各自の心理状態の関連性を明らかにしなければなりません。」彼の声は、これまでの厳しい指導者としてのトーンを保ちつつも、内面的な焦りと責任感が交錯していた。

中村は、携帯の生体センサーの画面を確認しながら、「数値は安定していません。特に、船内中央にいる隊員の心拍数が平均を大きく超え、一部は異常な振戦も見受けられます。私たちは、今すぐにでも精神的なケア体制を整えなければなりません」と、冷静な判断を下すとともに、仲間への配慮を声に出して呼びかけた。

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