序章:前編|後編 第1章:前編|後編 第2章:前編|後編 第3章:前編|後編
第4章:前編|後編
連鎖する惨劇と精神の崩壊
探査艇内に漂う不穏な空気は、昨夜から続く異常現象と共に、隊員たちの心に重い影を落としていた。昨夜の惨劇は、ただの一過性の事故ではなく、深海から伝わる未知の力が次々と連鎖的な影響を与え、精神の均衡を崩壊させる序章に過ぎなかった。部屋中に広がるセンサーの異常数値、急激に変動する体調データ、そして各隊員の眼差しに宿る緊張感が、内面の深い闇を如実に物語っている。
斎藤は、ブリッジのコンソールに表示される数値を冷静に見つめながら、深いため息をついた。「この状況は、単なる一時的な機器の不具合ではない。皆が感じている不安や恐怖、それは、この深海からの異常なエネルギーが、私たちの精神に直接影響を及ぼしている証拠だ」と低く、しかし重々しい口調で語った。彼の目は、これまでの任務で見たこともないほどの焦燥感を湛えており、過去の惨劇が再び蘇るかのような痛みが、内面に刻み込まれているようだった。
その横で、中村は、静かにしかし毅然とした声で、各隊員に注意を促した。「全員、今すぐに体調と精神状態の再チェックをお願いします。昨夜から急激な変動が観測されているデータがあります。個々の健康状態が、この深海の圧力と相まって、我々に与える影響は計り知れません。何か異常を感じた場合は、すぐに報告してください」と、彼女は温かい眼差しを向けながらも、厳格な指示を出した。
一方、ドクター・ローレンスは、再び解析ソフトの画面に映し出される不規則な波形を熱心に眺めていた。彼は、データの中に周期的なパターンがあることを確認すると、興奮気味に言葉を発した。「見てください、この波形。規則性を持って繰り返される変動は、古代の儀式に用いられた呪文やリズムと驚くほど類似しています。これが我々の精神に及ぼす影響は、ただの偶然ではなく、深い狂気への前触れかもしれません」と、彼の声は期待と狂信に満ちていた。
「博士、君の言う狂気というのは、我々が経験している一時的な不安を超えたものなのか?」と、斎藤は懐疑的な視線を向けながら問うた。「もちろん、私もその可能性は否定できません。しかし、ここで重要なのは、感情や理性の均衡が崩れ始めるという現象そのものです。私たちは、科学的に、この現象がどのようにして隊員の精神に影響を与えているのか、そのメカニズムを解明する必要があります」と、斎藤は毅然と述べた。