歌う井戸 – 第壱話

秘密の基地と歌声の謎

太陽が沈みかけて、櫻村の小道には柔らかなオレンジの光が差していた。夕暮れの静寂を楽しみながら、少年・陸は友人の純と共に村の端、深い林の中へと足を運んでいた。

「ここだよ、純。新しくできた井戸だよ。」

村の端に新しく出来た深い井戸の前に立つと、二人の目はその深さに釘付けとなった。この井戸は最近の子供たちの新しい遊び場となっており、その冷たさや深さを試すのが毎日の楽しみとなっていた。まだ、誰も底を見た者はいなかった。

「ここから石を落としても、全然音がしないんだ。」陸は手の中の小石を井戸に投げ入れた。しかし、期待した水しぶきの音は聞こえてこない。純は驚きの表情を浮かべながら言った。「こんなに深い井戸なんて初めて見るよ。」

話をしながら、二人は井戸の近くの大きな木の下へと移動した。この木の根元には、陸と純が子供の頃から作り上げてきた秘密基地がある。木の根元の土を掘り、中に隠れ家を作っていたのだ。何度もこの基地でキャンプをし、星空を眺めていた。

「この木、覚えてる?」陸は木の幹を撫でると微笑んだ。「昔、ここでキャンプをした時、祖母が語ってくれた話を思い出さない?」

純はしばらく考えてから、「ああ、確か…かつてこの地に住んでいた乙女がこの木を愛していたって話だよね。」

「そう、そうだよ。乙女はこの木の下でよく歌を歌っていたって。」陸は微笑んで追憶の中に浸った。「祖母が言ってたよ。その乙女の歌声は村中の誰もが羨むほど美しかったんだって。」

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