武術 – 第1話「出会い」

東京都内のある静かな寺。緑が豊かで、時折鳥のさえずりが聞こえる。その中で、穂村夏樹は托鉢僧としての日常を過ごしていた。彼の日課は、早朝から近隣の住民にお布施を求める托鉢と、その後の瞑想や太極拳の修行だった。

ある日の午後、夏樹が寺の敷地で太極拳の動きを練習していると、寺の外から騒がしい声が聞こえてきた。「あの中国人、ちょっと頭がおかしいんじゃないの?」という言葉とともに、数人の若者たちの笑い声が響いた。

夏樹は動きを止め、ゆっくりと門の方へ歩いて行った。すると、門の前には柚木萌仁香という名前の女性と、彼女のバイト仲間数人が、近所に住む中国人の老人を囲んで笑っていた。老人は怯えた表情を浮かべており、状況が良くないことは一目瞭然だった。

夏樹は、陳式太極拳の技を使って、萌仁香たちの間に割って入った。彼の動きは瞬時で、驚きの表情を浮かべる萌仁香たち。夏樹の目は冷たく、彼女たちを睨みつけながら「何をしているのか?」と問い詰めた。

「この中国人が…」と萌仁香は言いかけたが、夏樹の迫力に圧倒され、言葉を失った。



夏樹は萌仁香たちを制止し、老人を寺の中へと招き入れた。老人は感謝の意を示しながら、夏樹の優しさに涙を浮かべていた。

夏樹が老人を見送った後、萌仁香が独りで寺の門の前に立っていた。彼女は夏樹に近づき、「先生、私もあなたのような力を持ちたい」と言った。夏樹は驚きの表情を浮かべたが、彼女の瞳には真剣な光が宿っていた。

「どうして?」夏樹は疑問の声を投げかけた。

「私…私は間違っていた。そんな差別をすることは、間違っていると思います。でも、何もできずにいる自分が許せない。だから、あなたのように強くなりたい」と萌仁香は言った。

夏樹はしばらく考え込んだ後、萌仁香の真剣さを感じ取り、「分かった。しかし、私の元で修行するのは容易ではない。覚悟はあるのか?」と尋ねた。

萌仁香は頷き、「はい。覚悟はできています」と答えた。

こうして、夏樹と萌仁香の師弟関係が始まった。彼女は夏樹のもとで厳しい修行を積むこととなるが、それはまた別の話である。