雪の旋律に響く心 – 第3章

第6話: 「心のさざ波」

夜の冷たい風が、カイトの頬を刺すように吹き抜けていく。彼は一人、東京の夜の街を歩きながら、自分の中に渦巻く感情を整理しようとしていた。ライブの準備は順調に進んでいるはずだったが、カイトの心には漠然とした不安が広がっていた。足元の雪が音もなく踏みしめられる度に、彼はこれまでの人生を振り返り始める。

音楽を始めた頃の情熱。成功への期待と挫折。それらが今、自分の中でどのように位置づけられているのかが、カイトにははっきりと見えなくなっていた。「俺は本当にこれでいいのか…?」と、彼は誰にも届かない声で呟いた。

そのまま歩き続けた先に、いつものバーが見えてきた。ドアを開けると、暖かな空気と馴染みのある光景が彼を迎え入れた。カウンターには洋平が座っていた。カイトが隣に腰を下ろすと、洋平は彼に気付いて小さく笑った。「こんな夜に一人で考え事か?」と洋平は言い、バーテンダーに二杯目のドリンクを注文した。

「洋平…俺、なんだか分からなくなってきたんだ。音楽をやってる意味が、これで本当にいいのかどうか…」カイトはガラスの縁を指でなぞりながら、ぼそりと本音を漏らした。洋平はその言葉に耳を傾け、少し考え込んだ後、静かに口を開いた。「カイト、お前がこれまでやってきたことに意味がないなんてことはない。お前の音楽は、俺を含めて多くの人の心に響いてるんだ。」

その言葉に、カイトは顔を上げた。「でも、それは本当に俺がやりたいことなんだろうか…?」彼の瞳には、不安と迷いが浮かんでいた。洋平はその様子を見て、彼にとって本当に大切なことを思い出させるために、さらに続けた。「お前が音楽を始めた頃の気持ちを忘れるなよ。成功や評価なんて後からついてくるものだ。大事なのは、お前が何を感じ、何を伝えたいかってことだろう?」

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