和菓子の灯がともるとき – 12月29日 前編

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朝早く、由香は母に頼まれた買い物リストを手に、家を出た。外はまだ冷え込みが厳しく、吐く息が白い。家の裏手にある店――「夏目堂」のシャッターは閉まったままだが、ほんのわずかに埃のたまったレールを見て、昨日までの掃除で少しだけ店内がきれいになったことを思い出し、「もう少しで目を覚ましそうだね」と心の中でつぶやいた。今日は父の検査もなく、母は家で家事をしているため、由香が一人で町の商店街に向かうことになったのだ。年末の買い出しといっても、さほど派手なものはない。少しの食材と、母のリクエストである日用品。大きな袋が必要になるわけではないが、それでも地元の商店街を一人で歩くのは何年ぶりだろうと、由香は足を進めながら考え込んだ。

道中、懐かしい建物や看板があちこちに見える。かつて放課後に友人たちと通った駄菓子屋は、すでに閉店したらしく、その跡地には表紙の色褪せた「テナント募集中」の貼り紙がある。以前は年末ともなると、商店街全体が大掃除のような活気に包まれ、店先を飾る紅白の提灯や、歳末セールの大きな文字がどこかそわそわした雰囲気を醸し出していた。だが、今やシャッターを半分以上下ろしたままの店が並び、歩く人影もまばらだ。冷たい風が吹き抜ける商店街の通りに、由香は一抹の寂しさを覚える。

「そっか、こうなっちゃったんだね…」

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