和菓子の灯がともるとき – 12月27日 後編

その場で深い話をすることはできず、亮とは連絡先だけ交換して別れることになった。エレベーターの中で由香は「亮もいろいろ考えてるんだね」とつぶやくと、母は「そうね。あの子、地元で頑張ってるらしいよ。商店街もだいぶ寂しくなってきたから、いろんな行事を企画してるんだって」と言う。その言葉に、由香は「もしお父さんが店を再開したら、地元のお菓子屋としてイベントに参加するのもいいかも…」とごく自然に思い浮かべる。だが、それを実際に実現するとなると、父の体調や母の負担がどうなるのかは全く見通しが立たない。

夕方、自宅に戻った由香と母は、病院での様子を簡単に話し合ったあと、それぞれ一息つく。夜になって夕飯の支度をしながら、母が急にぽろりと「店をどうするか、そろそろ本格的に考えないといけないのよ」と切り出した。「あの様子だと、お父さんがすぐに復帰するのは難しいかもしれない。だからって私一人で再開できるわけじゃないし、あなたを巻き込みたくもないし…」と母の言葉はどこかうわずっている。由香は「巻き込むとかじゃなくて、私も和菓子の店を畳むなんて辛いと思う。少しでも父を元気にしたいし、一緒に考えたいな」と答えるが、母は「そういう気持ちはありがたいけど、あなたには都会での生活があるでしょう?」と遠慮がちに首を振る。

夕飯をとりながらも、二人の会話はぎこちなかった。母としては、娘には娘の人生を大事にしてほしいという思いがあるのだろう。しかし由香からすれば、父の店は幼い頃からの思い出であり、誇りでもある。「お父さんは、店を本当に諦めていいと思ってるのかな?」と由香が問いかけても、母は黙り込んだまま、困ったように目を伏せる。「明日も病院には行ってくるけど、どうせなら先生にも詳しく聞いてみようか。お父さんの今後の回復具合とか、実際に店に立てるようになるまでどれくらいかかるのか」と由香は提案する。母は「そうね…。それは聞いておいたほうがいいかも」と小声で答えるが、表情は晴れない。

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