和菓子の灯がともるとき – 12月27日 後編

12月26日 前編後編 12月27日 前編|後編

病室での面会時間も長くはない。しばし談笑した後、「お父さん、検査はどうだったの?」と母が尋ねると、父は「まあ、そこそこだ。医者にはゆっくり治療しろって言われてる。早く退院したいんだがね」と肩をすくめる。昔からせっかちで、じっとしているのが苦手な父には、病室で過ごす時間はもどかしいだろう。由香は「無理しないでよ。退院しても、店のことはまたゆっくり考えればいいんだから」と言うが、父は「そうも言ってられんからなぁ。お客さんが待ってるかもしれない」と呟き、視線を窓の外に戻した。

やがて面会時間が終わり、由香と母は病室を出る。少し離れたところでエレベーターを待っていると、廊下の向こうから見覚えのある顔が近づいてきた。秋月亮だ。由香と同じ小学校からの幼馴染で、以前はそこそこ一緒に遊んだ仲だが、大学で由香が上京してからは顔を合わせる機会がほとんどなかった。「え? 亮?」と由香が声を上げると、彼は少し驚いた表情のあとに「おお、由香、久しぶり」とほほ笑んだ。どうやら彼も父を見舞いに来ていたらしく、「おじさん、ちょっと顔色良くなったな。早く良くなるといいけど」と話してくれる。

亮は地元で小さな設計事務所を開いていると聞いていたが、実際こうして病院まで足を運んでくれているのを見ると、やはり地元への思いが強いのだろうと感じる。「ありがとうね、亮くん。気にかけてくれて」と母が礼を言うと、「いや、僕もおじさんには昔からお世話になってるから」とさらりと答える。続けて亮は「それでさ、もし夏目堂を再開することがあったら、何か手伝えることがあるかもしれないと思って。僕、今は商店街のイベントとか、ちょっと手がけたりしてるから」と話を切り出す。由香はその言葉に、一瞬胸が高鳴る。地元で父がやってきた仕事を、こうして誰かが形にして支えてくれるかもしれないという希望が垣間見えた気がしたのだ。

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