和菓子の灯がともるとき – 12月30日 前編

「今回の検査では大きな問題は見つかりませんでした。もちろん安静は必要ですが、この調子なら、年末はご自宅で過ごしてもいいかもしれませんよ」

その瞬間、由香たちは思わず声を上げた。母は「本当ですか?」と嬉しそうに医師に詰め寄り、由香も「家に連れて帰れるってことですか?」と確認する。医師は微笑を浮かべて「正式に退院が決まったわけではありませんが、検査結果によっては年越しだけ自宅に戻ることも考えましょう。しっかりとケアして、食事や休養には気をつけてくださいね」と念を押した。

父は苦笑しつつ、「まさか年末に家で過ごせるなんて思ってなかった。病院のベッドでテレビを見るだけが年越しだと思ってたからな」と安堵の表情を浮かべる。由香は「よかったね、お父さん。おうちで年越しできたら、おせちとかも食べられるかもね」とはしゃぎ気味に言うと、母も「そうよ。そしたら久しぶりに三人で大晦日を迎えられるわね」と、ほんの少し涙ぐんでいるようだった。

ひとしきり安堵したあと、由香は父のベッドのそばに椅子を引き寄せる。「お父さん、実はね、店に少しずつ人が出入りしてるんだよ。母さんもだけど、私や亮くんも掃除したりしてて。だから、焦らなくても大丈夫。お父さんが元気になれば、また少しずつお菓子が作れるんじゃないかなって」と話すと、父は「そうか…嬉しいな。道具はどうだ? 錆びたりしてないか?」と急に職人の顔つきになって訊いてくる。

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