聖夜に注ぐレクイエム – 12月19日

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謎の楽譜

雪がしんしんと降り積もる中、片桐悠人は自宅のデスクに広げられた楽譜「レクイエム」をじっと見つめていた。彼は怜子が残したこの楽譜に何か特別な意図が隠されていると確信していた。これまでに得た情報を照らし合わせながら、楽譜の中にメッセージが潜んでいるかを探していた。

「これだけ複雑な構成……ただの音楽じゃない。」

彼は呟きながら、楽譜の一部をコピーして音符を並び替えたり、書き込まれた文字を組み合わせたりしていた。すると、楽譜の中に不自然に強調された音符があることに気づいた。特定の音符が繰り返し現れ、それをアルファベットに置き換えると、断片的な単語が浮かび上がってきた。

「‘H-E-L-P’……助けて?」

悠人は思わず声に出した。怜子が何らかの危機に陥っていた可能性を強く感じたが、この短い単語だけでは彼女が何を伝えたかったのかは分からなかった。

さらに楽譜を解読していく中で、片桐は特定のパターンに気づいた。楽譜の端には、微妙に異なる線や記号が記されており、それを順番に追っていくと、次のような言葉が繋がった。

「炎の夜に消えた真実」

このフレーズを見た瞬間、片桐の脳裏に過去の音楽学校火災事故の記録が蘇った。怜子がこの火災に関する何かを告発しようとしていたのではないか。その考えが彼の中で強くなっていった。

悠人は携帯を手に取り、音楽学校の火災事故について改めて調べ始めた。記事や証言を掘り下げる中で、当時の関係者の一部が何らかの形で怜子の人生に影響を及ぼしている可能性を感じた。

その日の午後、片桐は陸に電話をかけた。彼が見つけた情報を共有する必要があると考えたのだ。

「大沢さん、少しお時間をいただけますか? 怜子さんの楽譜について話したいことがあります。」

「楽譜について? 何か分かったのか?」

「はい、少し解読を進めたんですが、怜子さんが何かを伝えようとしていることは間違いないと思います。ただ、その内容がまだ完全には分かりません。」

「分かった。今すぐそちらに向かう。」

陸は急いで片桐の自宅へ向かった。到着すると、片桐は既にいくつかの解読結果をまとめていた。彼は陸に楽譜を見せながら、これまでの進捗を説明した。

「この楽譜には、特定の音符が異様に強調されている部分があります。それを順番に並べ替えると、短いメッセージが浮かび上がります。」

「具体的にはどういう内容なんだ?」

「‘助けて’という言葉と、‘炎の夜に消えた真実’というフレーズです。これが火災事故を指しているのではないかと考えています。」

陸はその言葉を聞いて頷いた。怜子が抱えていた過去の記憶と、今回の事件との関連が徐々に明らかになりつつあった。

片桐と話をした後、陸は警察署に戻ると、10年前の火災事故に関する記録を再度確認することにした。事故で亡くなった生徒たちの名前、火災原因の推測、そして当時の生徒や教師の証言――全てを精査する必要があった。

「これが、怜子さんの失踪の真相に繋がるのか……。」

陸は机に広げた資料に目を通しながら、怜子の心に秘められた想いを想像していた。彼女は何を守ろうとしていたのか、何を告発しようとしていたのか。その答えはまだ霧の中だった。

その時、陸の携帯が鳴った。画面には三浦真知子の名前が表示されている。

「大沢さん、少し奇妙なことがありました。誰かがホールの控室に侵入しようとした形跡が見つかったんです。」

「侵入? いつのことですか?」

「今日の昼頃です。すぐにスタッフが気づいて何も取られなかったようですが、少し心配で……。」

陸の中で緊張感が高まった。怜子が残した楽譜に興味を持つ何者かがいるのは明らかだった。そして、それは怜子の失踪に直接関わっている可能性が高い。

陸は控室の状況を確認しに行くことを決め、すぐにホールへ向かう準備を始めた。怜子の「レクイエム」が伝えようとしている真実に、誰かが近づこうとしているのかもしれない。その誰かを見つけ出すための戦いが、静かに動き始めていた。

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