静かな郊外、どこか懐かしい香りが漂う街並みの中に、若き編集者、佐藤梨花は住んでいた。
彼女は出版社で働くため、毎日多くの本に囲まれていた。自らの情熱を注ぎ、書物の中にある世界を楽しむのが好きだった。ある日、会社から古い文書を整理するという大仕事を任されることになった。古書の香りや紙のざらつき、時代の経過を感じさせる数々の文書の中に、梨花は一通の手紙を見つける。
その手紙は、古い封筒に包まれたままだった。好奇心から、彼女はその封を切ることにした。中には、「私が消える前に、真実を知るべきだ」という不気味なメッセージが書かれていた。
差出人は、20年前に失踪した有名な作家、田中直樹だった。その一言が、梨花の心に不安の種を植え付けた。しかし同時に、彼女の探求心を掻き立てるものでもあった。彼は一体何を知っていたのか。どうして消えてしまったのか。
梨花はこの手紙が田中の失踪に関わる手がかりになると直感し、調査を始めることに決めた。彼女はまず、田中の友人であり文学仲間だったという先輩、村上に会うことにした。
「田中直樹? そんな名前、懐かしいな。あの頃はみんな夢中になってたのに。」村上はどこか懐かしんだ様子で話し始めた。
「田中は、確かに特別な作家だった。才能もあったし、個性も強かった。でも、失踪するなんて・・・彼に何があったんだろう。」
話を聞く中で、梨花は田中が持つ才能だけでなく、彼に纏わる複雑な人間関係を知った。友情、嫉妬、愛憎が交錯し、彼の人生は決して簡単なものではなかった。
次は田中のエージェントだった女性、藤井にコンタクトを取った。
「手紙を見つけた? それは驚いたわ。田中がいなくなった後、彼が残したものは色々あったけれど、こんなもの含まれているとは思わなかった。」
どこか陰りを感じる藤井の言葉に、梨花はますます興味を持つ。
田中の過去や彼の書いた物語の背後には、彼自身しか知りえない秘密が隠されているのではないか。
調査を進めるうちに、梨花の周囲にも変化が訪れる。 彼女が田中に関する質問をすると、友人たちや同僚たちの反応が鈍くなり、彼女に無関心を装った冷たい視線を向けてくる人々が増えていった。
「何か知ってるの? 田中のことを探ってるなら、変なことからは手を引いた方がいいわ。」
ある晩、同僚の久保からもそんな忠告を受ける。彼の表情から、本気で彼女を心配している様子が見て取れた。彼女は言葉を返すことができず、ただ、運命の糸を辿ることを決意した。
梨花は村上、藤井に加え、最後に田中の実家を訪れることにした。そこは、田中が小さな頃から過ごしていた家であった。
田中の妹、佐智子は平穏無事な日常を送っているように見えたが、どこか影のある目をしていた。
「兄がいなくなってから、私たちはどれだけ苦しんできたか。呪いのようなもので、私たちはその影から逃れることができない。」
佐智子の言葉には、深い悲しみと恨みが垣間見えた。失った兄に対する思いや、それが引き起こす家庭内の亀裂を感じざるを得なかった。
調査を重ねる内、自らも危険な目に遭いながら、梨花は徐々に田中の失踪の背後にある真相に迫っていく。
彼女を追い詰める影、田中の失踪に関与している人々の秘密、そして潜む嫉妬の渦。それらが交錯し、恐ろしい真実が遅かれ早かれ明らかになるのではないかと不安に感じる日々。
ある晩、自宅で手紙を再度読み返していた時、突如として背後に気配を感じる。
「梨花!何をしてるんだ!」
急に振り向くと、久保が現れた。彼の顔には真剣な色が浮かんでいた。
「お前が調査を続ければ、もっと危険な目に遭うかもしれない。もうやめるんだ。」
彼はそのまま梨花を引き留めるようにして、二人は話し合うことになった。久保は、梨花が知らないある危険な真実を知っているらしい。
「田中が失踪するまでに、彼に近づいた人々の多くが、彼から逃げていった理由を教えてやる。その裏には何があったのか、どうして彼のことを調査してはいけないのか。」
梨花は言葉に詰まる。しかし、この手紙の真意や背景は何なのか、明かして欲しいと心の中で叫んでいた。
「いいや、私は真実を知りたい。田中のこと、そして、私自身のことを。」
梨花の言葉が彼女の素直な心情を表すような一瞬だった。彼女はこの運命を受け入れる決意を固めたのだ。
「それなら、私も力になろう。」久保の表情は少し柔らかくなり、二人は協力して調査を続けることにした。
さあ、消えた手紙の謎に迫る旅が始まる。果たして彼らは、田中の失踪の真相を解き明かし、全ての答えに辿り着くことができるのか?物語は、時代を超えた文書の背後で起きる真実のドラマを描いていく。
梨花の運命が、手紙に込められた情熱のように、消えた作家の探求へと繋がっていくのだった。

















