異世界冒険者ギルドの日常 – 第5章:前編

 私は帳簿から“出納印”を抜き取り、セルで印影角度を計算して投げつけた。

 螺旋を描いた印は領収書の中心へ突き立ち、“支出済”の朱が弾ける。式は資金不足で破綻し、鋼線が灰塵と化した。

「やるじゃないか、補佐官殿」

 影から声。現れたのは甲冑に仕訳表を彫り込んだ女騎士。肩章に“β”の刻印。

「第四課主計長、ベータ・ヴィリエ。以後、決算の刃でお相手するわ」

 甲冑の割符が開き、通貨スロットから光の小判が排出される。小判は空中で数字を帯び、長槍へと形を変えた。

 槍がひと振り、回廊の大理石が易々と抉れる。

「リリィ、カタパルト! ティリア、対魔力矢! 私は支払限度額を操作する!」

 私はセルに注ぎ込まれる小判の枚数をカウントし、マトリクスを反転させる。

「小判一枚=魔力百。だが課税十五%、補助金相殺二〇%、固定資産償却五%――合計四〇%差し引き!」

 式の右辺が赤字へ傾き、槍の軌跡が揺らいだ。

 そこへティリアの矢が中心支点を破壊し、槍が虚しく蒸散する。

「数字の詐術か……!」

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