異世界冒険者ギルドの日常 – 第5章:前編

「“財務直轄魔装部隊”――通称〈アカウンティング・ナイト〉。数字を魔術式に変換し、決算を“刃”にする連中よ。灰色宰相直属の最後の切り札」

 ――数字を刃に? どこか自分の魔法と似た響きに、背筋が冷たくなる。

「ユウトのエクスセルは計算速度と応用性で上を行くけど、奴らは“予算”の多寡で魔力を強制上乗せする。戦闘持続時間が桁違いよ」

 クラリスが切り出す。

「だからこそ走り抜ける。長期戦は不利」

 私たちは広い回廊へ足を踏み入れた。天井のステンドグラスから射し込む光が、円柱の影を長く伸ばしている。

 その影が――ぐにゃり、と人の形に盛り上がった。黒でも灰でもない、曖昧な銀灰色。

 剣と同時に領収書の束を模した紙片が無数に舞う。数字の羅列は空中で発光し、式を成すと同時に鋼線へ変わった。

「来たわね、ナイト第一陣!」

 マリエルが叫ぶより速く、ティリアの矢が二本、鋼線の結節点を射抜いて爆ぜる。

 しかし次の瞬間、新たな領収書が湧き、式が再構築される。

 私は《エクスセル》を開き、式のパターンを解析。

(式の主変数は“資金投入係数β”。一定周期で再発行……ならば)

「資金計上前に経費で落とす!」

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