異世界冒険者ギルドの日常 – 第5章:前編

 ベータが吠え、追加の小判を一気にチャージ。魔力放射が眩しさで視界を奪う。

 刹那、ガルドが突っ込んだ。

 腕には鍛冶箱を改造したリリィ製“反魔力シールド”。課税分を強制吸収する魔法陣が刻まれ、小判の光が吸い込まれていく。

「会計は黒字が基本だろ!」

 ガルドの大剣が甲冑に叩きつけられ、ベータごと壁にめり込む。

 私は即座に経費計上のセルを“過剰支出”へと書き換え、ベータ本人の魔力残高を0へ上書きした。甲冑の光が消え、主計長は昏倒。

 残り二十五分。

 回廊の奥、黄金の両開き扉が見えた。その向こうが大法廷。

 だが床に散った小判が、ひとりでに重なり合い、新たな数字陣を描き始める。

「第二陣来るわ!」

 マリエルが法典を構えた。

 私は腕章を強く握り、深呼吸する。

(数字は味方だ。帳簿は剣。迷いはない)

 コインが鳴るような硬い音がこだまし、ドーム天井の天秤に影が走った――最終決算まで、あと二十四分。

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第5章: 前編|後編

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