異世界冒険者ギルドの日常 – 最終章:前編

 ユウトはセルに“逆仕訳”を入力。

 =IF(Transaction=”Blank”,Insert(Phantom, -1*Value))

 入力と同時に、金霧がわずかに揺らいだ。

 女術師が振り向き、蒼い瞳を細める。

 「また数字の男……だが今回は資産自体が存在しない。奪うものなどないわ」

 「なら、君らが盗んだのは“負債”だ」

 ユウトは次の式を叩き込む。

 =REVERSE_ENTRY()

 黒装束の足元で床が光り、彼らの影が帳簿の“貸方”へ吸い込まれるイメージを結ぶ。

 リリィのジャマー弾が炉心へ突き刺さり、タグ信号が焚書紙全部へ伝播。

 ガルドが鉤縄で炉心の蓋を締め上げ、ティリアの矢が固定栓を貫いて封鎖。

 女術師は叫び声をあげ、空白書を束ねたまま高く掲げた。

 「ゼロ除算――!」

 しかし矢より速く、ユウトの関数が走る。

 =IFERROR(#DIV/0!, “帳簿確定”)

 ゼロ除算エラーは“帳簿確定”へ変換され、紙束は灰すら残さず崩れた。女術師の腕に刻まれた〈Ωδ〉の魔紋が色あせ、ただの傷跡へ変わる。

 「空白は埋まった。君たちの余白はもうない」

 ガルドが歩み寄り、剣なしで拘束を済ませる。

タイトルとURLをコピーしました