異世界冒険者ギルドの日常 – 最終章:前編

 日の出前、凍てつく雲海の上に薄紅の光線が走るころ、ベル=フェルド本倉庫群へ復元在庫の通知が届く。

 魔力符で物資を復元した会計ログを見た古参吟遊詩人が、「物が帰ってきたぞ!」と叫び、村の鐘を鳴らした。

 雪明りの中、蒸気を上げる煮豆の鍋から新しい一日分の香りが立つ。

 ユウトは馬車の後扉を開き、帳簿を抱えて息を吐いた。

 「空白セル、記載済み。期末まで、あと三週間」

 ティリアは弓を肩に乗せ、少しはにかみながら言う。

 「来年の決算書、空白が増えないといいわね」

 ユウトは笑い、ページを閉じた。

 「増えてもいいさ。空白は、私たちに数字を書かれるのを待ってる“未来”でもあるから」

 北風が雲を払うと、氷原の彼方に薄い虹がかかっていた。そこへ記載すべき未知の数字が、今日も新たに生まれつつあるように見えた。

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