遠い声

大学のキャンパスは穏やかな初夏の陽射しが降り注いでいた。

その中で、拓也は日々を淡々と過ごす普通の大学生だった。
彼は、交友関係が薄く、静かな日々を好んでいたが、心の奥では一つの願いがあった。
それは、真理子に想いを伝えたいという気持ちだった。
彼女はいつも周囲を笑顔にし、華やかな存在感を放っていた。
健太という優秀で魅力的な彼氏がいるため、拓也は自らの想いを胸に秘めていた。

そんなある日のこと、拓也はキャンパスの片隅で真理子が不安そうに携帯電話を見つめる姿を目にした。
彼女の表情は明るさとは裏腹に、どこか陰りがあった。
最初は声をかける勇気が出なかった拓也だが、彼女がどうしても助けを求めているように見えた。
彼は、自分の心の声に従うことに決めた。

「真理子、どうしたの?」

彼の声は緊張が入り混じっていたが、真理子は驚いた表情を浮かべ、すぐに笑顔を見せた。

「拓也くん、ありがとう!実は、健太が急に予定を変更したみたいで……」

そんな状況を聞いた拓也は、彼女の心の不安を少しでも和らげたいと思った。
その日の昼休み、二人は一緒にカフェで話をしながら、少しずつ心の距離を縮めていった。

拓也の控えめな優しさや素朴な言葉の数々に、真理子は心を開いてゆく。
彼女は、健太との関係に悩み、その支えを彼に求めていることに気がついた。
登校後の何気ない会話や、授業の合間に絵を描く時間が、拓也にとってかけがえのないものに感じられた。

しかし、シャイな性格はなかなか彼の思いを言葉にさせなかった。
真理子からの信頼を感じながらも、自分の気持ちが伝えられないもどかしさがいつもあった。

そんなある晩、彼らは土手の上で夜空を見上げながら、心情を吐露する時間を持った。
静寂の中、真理子が涙を流しながら彼女の心情を語り始めた。

「拓也くん、私は人前では明るく振舞っているけれど、実はすごく悩んでいるの……。
健太といても、本当に幸せなのか分からないの。
拓也くんがいると、心が落ち着くの。」

その言葉に背中を押されるように、拓也はついに自分の思いを伝えた。

「真理子、俺はずっと君のことが好きでした。」

静かな夜空に、彼の告白はしんと響いた。
彼女は驚き、目を瞠ったが、次の瞬間、嬉し涙を流していた。

「私も、拓也くんを大切に思っている。
確かに健太と事がありすぎて、自分を見失っていたけれど、
あなたは私にとって特別な存在だよ。」

その後、二人はお互いの存在がどれほどかけがえのないものなおのかを深く理解した。

月日が経つにつれ、彼らは徐々に心を通わせ、より深い絆で結ばれていった。

拓也は、真理子と共に未来を歩むことを決意し、
彼女の手をしっかりとつかんだ。
彼女もその手に応えるように、自分の気持ちを込めて握り締めた。

静かな笑顔を交わしながら、二人は新しい扉を開くことにした。

これからの人生を共にすることを誓い、想いを寄せ合う二人は、希望に満ちた新しい一歩を踏み出す。

「遠い声」は、二人の心の中で今も優しく響いていた。

彼の日々が、彼女の存在によって彩られ、拓かれていくことに、心からの感謝を捧げた。

彼らの心には、愛情と希望が満ち溢れていた。

(完)