運命のレシピ – 第5話

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秘密のスパイス

 朝のまどろみを破るように、スマートフォンが震えた。

 〈至急ご確認ください〉——送り主は伊藤司。添付されたPDFを開くと、冷たい活字がリナの視界をえぐった。

 「橘フードホールディングス 地方再開発プラン」

 買収候補地一覧の中に、見慣れた住所——〈カフェ・ルフレ〉の地番が載っている。

 「どういうこと……」

 胸が氷水に沈む感覚のまま、リナはタケルのいる試作室へ向かった。昨日までのあたたかな厨房が、今はステンレスより冷たく見える。

 タケルは白雪ニンジンをローストし、焦がし味噌と合わせてスープのベースを作っていた。

「今夜のVIP試食会に出す新メニューだ。白雪ニンジンの甘みに、味噌のコクを重ねて——」

 説明の途中、リナは画面を差し出した。

「この計画、知ってたの?」

 タケルの手が止まり、香り立つ湯気の向こうで眉が揺れる。

「父が進めているのは把握していた。でも止める方法を探して——」

「探している間に私の店はリストに載ったわ」

 声が震えた。鍋で踊るスープの泡が、自分の怒りのように弾ける。

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