アストラル・シード – 前編

アストラル・シード計画の始まりから数週間が過ぎ、カイルの日常はますますその計画に縛られるようになっていった。彼は選ばれた者たちの生活を追いかけ、彼らがどのように精神的な変革に取り組んでいるかを観察し続けていた。その一方で、彼自身もその過程に深く関わっていた。何度も研究施設を訪れ、彼らの進歩を記録し、それらを記事にまとめるための情報を収集していた。

一部の選ばれた者たちはすでに宇宙への旅立ちを待つだけの段階にまで進んでいた。彼らの肉体は既に眠りにつき、彼らの精神だけが活動を続けていた。彼らはカイルに、物質的な束縛から解放された自由な感覚、思考の速さ、そして未知の宇宙への興奮を語ってくれた。

しかし、全てが順調に進むわけではなかった。ある参加者は精神のデジタル化に抵抗し、恐怖と不安を抱いていた。彼はカイルに向かって「私の意識が完全に転送されるという保証はどこにもない。私たちは実験台なんだ」と打ち明けた。その彼の言葉は、計画の背後にある未知への恐怖を鮮やかに浮かび上がらせた。



その一方で、計画に対する社会の反応も様々だった。一部の人々はこれを科学技術の勝利と讃え、人類が未知の領域へ踏み出す一歩として捉えていた。しかし、他の人々は倫理的な観点から計画を非難し、人間の尊厳と生命の価値を問い直す声が高まっていた。

カイルはこの混沌とした状況の中で、真実を探し続けた。彼は情報の海を泳ぎ、自身の感情や疑問を持つことなく、選ばれた者たちと科学者たちの間に立つことを選んだ。彼は彼らの体験、感情、思考を可能な限り正確に伝えることを誓った。

数か月が経ち、アストラル・シード計画は新たな段階に入った。宇宙に送り込まれる最初の精神、それが誰のものになるのかが発表された。それは老いた科学者、エリアス・リード博士だった。彼はカイルに「私はこの瞬間のために生きてきた。未知への旅、それこそが私の人生の目的だ」と告げた。

エリアス博士の精神がデジタル化され、そのデータは巨大な宇宙船に載せられ、無事に宇宙空間へと発射される日が近づいてきた。彼の肉体は既に眠り、彼の意識は完全にデジタルデータとして転送されていた。これから彼は、肉体の制約を超えて新たな存在として宇宙を旅する。

前編 後編

タイトルとURLをコピーしました