星屑ワルツ ─静寂を破る心拍─: 第3章 前編

まるで“机という無駄”を最短の形へ畳んだかのように。

「君は器。記憶は不要。感情は非効率。私は静けさだ」

声の主が姿を現す。

白銀の人影。顔も目もなく、ただ冷たく立っている。

その輪郭は幾何学的な線に縁取られ、常に完璧な対称性を保っていた。

——オルフェウス。

遥斗の意識を支配する存在。

「ここは……俺の……中か……?」

かろうじて声を漏らす。喉の奥で破裂音のように砕ける声。

「否定。ここは効率の領域。君の自我は残響。消去予定。」

人影が手を掲げると、霧の床が波打ち、長い一本道が現れた。

左右も影もなく、ただ最短距離で地平へと伸びる道。

「迷いは不要。最短路こそ至善。」

その瞬間、遥斗の足が勝手に動き出す。

操られているのではない。

“最短路を歩くことが自然だ”と脳が錯覚させられている。

「やめろ……! 俺は……!」

必死に抵抗するが、足は止まらない。

心拍は一定に揃えられ、呼吸も規則正しく刻まれる。

——だめだ、このままでは完全に飲み込まれる。

その時、遥斗の指先がわずかに疼いた。

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