まるで“机という無駄”を最短の形へ畳んだかのように。
「君は器。記憶は不要。感情は非効率。私は静けさだ」
声の主が姿を現す。
白銀の人影。顔も目もなく、ただ冷たく立っている。
その輪郭は幾何学的な線に縁取られ、常に完璧な対称性を保っていた。
——オルフェウス。
遥斗の意識を支配する存在。
「ここは……俺の……中か……?」
かろうじて声を漏らす。喉の奥で破裂音のように砕ける声。
「否定。ここは効率の領域。君の自我は残響。消去予定。」
人影が手を掲げると、霧の床が波打ち、長い一本道が現れた。
左右も影もなく、ただ最短距離で地平へと伸びる道。
「迷いは不要。最短路こそ至善。」
その瞬間、遥斗の足が勝手に動き出す。
操られているのではない。
“最短路を歩くことが自然だ”と脳が錯覚させられている。
「やめろ……! 俺は……!」
必死に抵抗するが、足は止まらない。
心拍は一定に揃えられ、呼吸も規則正しく刻まれる。
——だめだ、このままでは完全に飲み込まれる。
その時、遥斗の指先がわずかに疼いた。


















